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「付き合ってくれてサンキュ、バーボン」
ホテルの外に出て、歩いていると彼がお礼を言った
「いえ、これからも何かあれば言ってください」
「そうする。お前、結構優しいし」
「ご冗談を」
「そうか?本気で言ってんだけどな」
そう言った彼が僕の顔をのぞき込んだ
「やめてください。恋人がいるんでしょう」
「恋人と遊び相手は別だろ?」
組織の人間に言うのもあれだが、倫理観がぶっ飛んでいる。恋人がいるなら、遊び相手なんて必要ないはずだ
「俺とジンみたいなもんだよ」
「貴方とジンみたいな・・・?」
「体だけの関係だよ」
ジンとこの人は体だけの関係。そう言われればジンが彼を邪険に扱わないのも頷ける。彼は有能な組織の人間で、ジンのお気に入り。ヒロの代わりに推薦される訳だ
つまり、この人は組織としての信用はしても、人としては信頼を寄せてはいけない人物、という事になる
「お前だって、そういう奴ぐらいいるだろ?」
やけに大きくはっきり聞こえた質問に、僕の脳裏に家で僕を待っているAがよぎった
僕は、僕達は確かに体だけの関係だ。それ以上の事をAが望んでいないから。それしか、Aを引き留める術がないから
そんな理由をつけてみても、何も知らない他人からすれば、僕達の関係だって、この人とジンの関係性と同じだった
「いないってか?」
「・・・いませんよ、そんな人」
「そう。つまんな」
「貴方にどう思われようが、僕には関係ありませんからね」
どう思われようが関係がない。仕事さえしておけば、ここではどうにかなる。信頼をされるように取り繕うべきだとは思うが、どうにも馬が合わない人が多い
「じゃあ、俺としない?」
「は?」
「だって、フリーなんでしょ?良いじゃん、少しぐらい」
「恋人がいるんでしょう」
恋人がいる人間の発言とは思えない。軽率な言動で、この人が恋人を大切に思っていない事が分かる
「大切な人もいないんだし、断る理由ある?」
「嫌だから断ってるんです」
「それもそうか。ま、考えてみてよ。俺は待ってるから」
彼は僕よりも大きく一歩を踏み出し、僕の前に立って、腰を折って顔をのぞき込みながら言った
「想いなんてないよ。・・・だって、体だけの関係だからね」
そう言って、彼は笑みを深めた
無性にAに会いたくなった。だからと言って、仕事を放棄する事も出来ず、予定通りの次の日の夜にAのもとに帰った
鍵を開けて、玄関のドアを開ける。そうすると、奥の部屋からAが顔をのぞかせた
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作者名:空白可能 | 作成日時:2023年3月27日 23時