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「それは良かった」
「僕はここで失礼します」
「じゃあね」


Aさんと別れて、一人になって考えるのはアイツの事だった

欠けた部分を補う為に頼れる相手と言われて、真っ先に思い浮かんだのは、既にこの世にはいない友人や幼馴染み。頼れる人なんて、僕にはもういなかった


「おっと、すみません」


廊下を歩いていると誰かにぶつかってしまう


「こちらこそ。あ、そうだ」


そのまま通り過ぎて、歩いて行こうとすれば、ぶつかった人が思い出したような声を出した。ぶつかった人の足音が止まり、自分も立ち止まった


「スコッチの処理は済んだと上に報告しておいてください。バーボン」
「・・・分かりました」


返事をして、歩き去る足音が遠くなったあと、ぐっと奥歯を噛んだ

スコッチの処理が済んだという事は、本当にこの世からいなくなった事を示していた。アイツの遺体がどうなったかなんて、考えたくもなかった

どうにもする事が出来なかった僕はそれを上に報告した

その後、ライもノックだという事が分かり、組織を離脱し、僕の赤井 秀一に対する憎悪は異常な程に膨れ上がる結果になった


「Aさんは知っていたんですか?」


医務室のイスに座って作業をする彼の背中に問い掛けた


「何が?」
「ライがノックだと」
「知らなかった。って言えたら良かったけどね」


Aさんはそう言いながら顔を上げて、イスを動かして移動し、医務室のベッドの傍にある引き出しに小さな鍵を差していた


「ほら」


そこから何かを取り出し、僕に手渡した。それは何かの資料のようで、それを受け取り、目を通した


「病院のカルテ・・・」


見せてもらった資料はカルテだった


「諸星 大 なんて人間はいない。言葉は嘘を吐くが体は正直なもの」
「ずっと知っていたんですか。それなのに・・・!!」
「俺はどちらの味方でも無いよ。訊かれなきゃ答えないし、俺にとってはどうでも良い事」
「どうでも良いって、」


カルテから外した視線をAさんに向けて、文句を言おうと思ったけれど、彼の冷めた目に言葉が出なかった


「何か言いたいのかな?」
「・・・僕にとっては、どうでも良い事じゃなかったんですよ」
「確かにその通りだ。しかし、君が望む事は俺の望む事では無い事も事実だ」


言い返しようが無かった


「だけど、俺は可能性を潰す事が嫌いなんだ」
「可能性?」
「その通り。可能性は多い方が成功率は大幅に上がる」


そう言って笑った彼はイスを動かして元の位置に移動した

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作者名:空白可能 | 作成日時:2019年9月11日 0時

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