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「おやすみ」
「アウ」
布団の中に入ったAの体を撫でながら、目を閉じる。生きているものの温かさは心地よくて、変な夢を見る事もなかった
朝の目覚めは、良いものだった
「おはよう」
くぁ、と欠伸をしているAに声を掛けた
「ワフ」
「君は良い子だな」
毛艶の良いAの体を撫でる
「今日は病院に行くから、そのつもりでね」
「ワウッ」
朝食を食べ、仕事の合間に予約していた病院に向かう事にした。Aは大人しくしていて、病院に入っても落ち着いた様子で床に伏せていた
「安室 透さーん、診察室にどうぞー」
自分の名前を呼ばれて、座っていた椅子から立ち上がる
「呼ばれたから、行くよ」
「ワゥ?」
「僕達の番だよ」
「ワフ」
何故かいまいち理解を示さないAは、僕を見て首を傾げている。それに対して、僕もどういった反応なのかが分からず、首を傾げてしまう
お互いに首を傾げあっていても意味はないので、診察室に向かう事にした
「それで、色々とお願いしたいのですが・・・」
「なるほどなるほど。どれどれ・・・、ノミやダニはいないようですな。それにこの毛並みの良さ、相当大切にされていた」
やはり飼い犬だった事には間違いはなさそうだった。それもかなり大切にされていて、捨てられたのが、ほんの数分前と言うような、そもそも捨てられたのかという疑問だ
だが、仕事の合間に迷い犬の情報を調べてみたが、それらしいものは見つけられなかった
「私も、長らく動物を見て来ましたが、こんなに綺麗な犬は初めてですよ。一体どうやったら、こんな綺麗な蒼色が出るのか、気になりますな」
「そうですね」
お年寄りの獣医でさえ、見た事のない犬種だという話だ。そこまで珍しい犬種となると、嫌な考えが頭によぎってしまう
この犬は、どこかで作られた生物なのではないか。そして、そこから逃げて、僕と出会った
どこかで作られたものであれば、大切に管理されるのは必然であり、異質な個体であっても、なんら不思議な事ではない。人の言葉を異様な程に理解を示す事だって可能なはずだ
「大切にしてあげてくださいね」
病院を去る前に受付の女性に言われた
「はい。勿論です」
「よろしくお願いしますね。良かったね、Aくん」
「ワンッ」
「ふふふ、お疲れ様。安室さんも、お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
Aを連れて、病院を後にする
出た先で立ち止まり、隣にいるAを見下ろした。同じく立ち止まったAも、僕の事を見上げた
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作者名:空白可能 | 作成日時:2022年10月11日 23時