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「他に?麻酔が入ってたな」
「麻酔?」
「ああ。麻酔が入ってたアンプルを調べたんだが、軽いものではなかったな」
どうして麻酔が彼の貰ったケースに入っていたのか。ヒロの話によれば、他には注射器の替え針が入っていただけで、何かが分かるようなものは入っていなかった
「どうして、麻酔なんて・・・」
「俺にはさっぱりだ。ゼロの方が長い付き合いじゃないのか?」
「僕が彼と友達になったのは、ヒロがいなくなってからだ」
彼との時間は濃いものではあったが年月で言えば、それほど長い付き合いでもなかった。二年ほどの付き合いではあったものの、変な話だが充実していたと思う
「俺も二年ぐらいだからなぁ。長いのはやっぱり明美さんと志保ちゃんになるのか。親同士が仲良かったみたいだから」
「は、」
「聞いてないか?」
「聞いてない・・・」
カーディナルの両親は宮野家と仲が良くて、薬の研究にも同じように関わっていた。彼から聞いていた話がこんな所で自分と繋がるとは思わなかった。ベルモットから仲が良かったとは聞いていたけれど、そこまでとは
彼は本当に自分の大切な人に手を差し伸べているだけだった。守りたいから守っている。それがひしひしと伝わって来た
「彼に記憶が無い事は言ってるのか?」
「いや、あのままでいさせてる。記憶の事を知れば、気になって気になって眠れないだろうから」
「そうか」
「ま、仲良くしてやってくれよ」
「勿論」
何か償いになる事はしたかった。彼には数え切れない程の恩がある。そして、償うべき罪も多かった。彼を裏切った罪は重い。彼は生きてはいるけれど、片手を失っているのだから
「ちょっと行って来る」
「それじゃ、俺は晩飯でも作るかな。おーい、手伝ってくれー」
「僕?」
「いいや、お姉ちゃんの方。Aはこの人と遊んでてな」
僕の方を見て、ヒロが言う。僕はキュラソーと入れ代わりにカーディナルの傍に来た
「お前が遊んでくれるの?」
「はい。良いですか?」
「特別に許してやるぞ!!」
「ありがとうございます、Aくん」
お絵描きをしていた彼の右隣に腰掛ける
「Aくん、お友達になってくれますか?僕と」
「友達?お前がどうしてもって言うなら、なってやっても良いぞ!!」
彼は一度聞いた事のある言葉を言う
「どうしても、です」
「じゃあ、なってやる!!ありがたく思えよ!!」
「はい。お願いしますね」
「僕とお前は今から友達だ!!何かあったら言うんだぞ!!絶対だぞ!!」
「分かりました」
彼は本当に優しい人だ。僕になんてもったいないぐらいの友達だった
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作者名:空白可能 | 作成日時:2021年12月12日 0時