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「ここまで、ありがとう。またな」
「どういたしまして。また」
彼とラボの前で別れた。来た道を引き返しているとベルモットを見掛けた
「ベルモット」
「あら、バーボンじゃないの。どうかした?」
「ベルモットに訊きたい事があるのですが・・・」
「訊きたい事?」
「はい。カーディナルについて」
そう言うとベルモットは露骨に嫌な顔をした
「教えてくれますか?ジンが貴女の方が詳しいと言っていたので」
「なるほどね。で?何が知りたい訳かしら?」
「カーディナルの名前は何か分かりますか?訊いても教えてくれなかったので」
暗い表情をした彼に問い詰められずにいた事をベルモットに訊いた
「カーディナルはカーディナルよ。カーディナルがあの子のコードネームであり、名前なのよ」
「カーディナルが、ですか?」
「そう。あの子には名前が無いの。だから、カーディナルと名付けられた」
あの時、彼が僕の質問に答えてくれていた事を知る
「名付けたのは、ここの研究員だった夫婦よ。今はもういないけどね」
「彼の親は?」
「実の親はいないわ。あの子は虐待か何かで捨てられていたのよ。それを拾ったのが名付けた夫婦」
そして、カーディナルと名付けた彼を育てた。明るく元気な夫婦のお陰で、彼は暗く閉ざした心を開いて、その夫婦のような明るさを持つ事が出来た
血の繋がりが無くても、彼がその夫婦の事が大好きで尊敬していた事は、この間の食事の時に聞いて分かっていた
「・・・その夫婦は今?」
「勿論、とっくの昔に亡くなってるわ。十六年か十五年程前にだったか、殺されたのよ。この組織の連中に。カーディナルの目の前でね」
「は、」
「私はその現場にはいなかったけど、話に聞く限り、酷かったらしいわ」
自宅で家族団らんの食事をしていたカーディナル達を襲い、彼の目の前で両親を殺害したのだという。その時のカーディナルは月日が流れたとは言え、まだ幼かった
「やめてくれ、何でもするからって泣き叫んでいたそうよ。それでも両親は目の前で殺された。そして、カーディナル自身も酷い拷問を受けた。我々に従うようにね。ジンがたまにカーディナルと寝るのは主導権の確認みたいなものよ」
力で支配されたカーディナルは仕方なく、この組織に従っている。あれほどまでに明るい人格からは想像も出来ないような過去を彼は一人で抱えていた
「あの子の成長が止まったのも、その頃からね。精神的なダメージが積み重なって、成長に悪影響が出たんじゃないかって、あの子自身は言ってるけど、どうだかね」
ベルモットは含みのある言い方をした
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作者名:空白可能 | 作成日時:2021年12月12日 0時