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鳥灯さんと、いつぞやのように見詰め合う。そして、彼は目を閉じる。それに誘われるように顔を近付け、唇を重ねた
「安室さんも、物好きですね。死神に愛されると、大変ですよ?」
「とうの昔に僕は、死神に愛されていますから。それに貴方は死神ではありません。死神に取り憑かれた、善良な市民です」
「そうだと良いですけど。戻りましょう」
そう言われ、彼に手を引かれた
前を歩く彼の姿を見詰める。彼の本心が分からなかった。人の心を予測する事は出来ても、可視化する事は出来ない。僕は彼に騙されているのか、それとも彼は本当に心優しい人間なのか
「安室さん?」
「あ、えっと、何でしょう?」
立ち止まった彼が声を掛けて来たので、返事をする
「今日のお仕事は?」
「それなら、もう終わっていますよ」
「そうでしたか。じゃあ、今日は独り占め出来るんですね」
「それって、どういう・・・」
どういう意味ですか、と問い掛ける前に鳥灯さんに口を塞がれた。触れるだけのキスではなくて、彼の舌が僕の口内に入り込んだ
「あっは、僕に愛されると大変だって言いましたからね?」
唇を離し、僕を見上げてそう言った彼の笑い方は、彼女にそっくりだった。鳥灯さんへの疑問は、更に募っていった
「聞いてます?」
「聞いてますよ。僕は、貴方を裏切りません。だから、貴方も僕を裏切らないでください」
「分かりました。安室さんを裏切るような行動が、何か分からないですけどね」
そうだ。彼には、僕が警察官である事も話していない。有利はこちらにあるが、鳥灯さんが勘付いていたら、それはこちらの不利になる
「安室さんって、何考えてるか当てるの、難しそうですよね」
「そうですか?」
「はい。いつもニコニコ笑ってて、人の話を聞くばかりで、安室さんの話、聞いた事が無いので、予測がつかないんですよね」
自分の話が、何かに不利になる要素になってしまうのなら、誰も何も知らなくて良い。話したところで、何かが変わる訳でもない
「・・・僕の話は面白く無いですからね」
「そんなの、安室さんだけじゃないですよ。僕の話だって、面白く無いですよ。面白いと思いますか?僕の話」
「何と答えたら良いか・・・」
鳥灯さんの過去は、物凄く暗いものだ。それは今も変わらない
「この話はやめましょうか。安室さんは、優しいですね」
「そうでもないですよ。僕は貴方を、」
信じられていない、そんな言葉は声にする事は出来なかった。彼の全てが疑わしいと言うのに、どうして否定する事が出来ないのだろうか
彼に対する謎は、深まるばかりだった
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作者名:空白可能 | 作成日時:2021年4月7日 0時