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「・・・それは違います。貴方が悪い訳ではありません」


彼女が何を思ったのか、彼の周りにいる人達の命を奪い始めた。いや、理由は分かりきっているか。彼に害を及ぼす全てが、彼女の敵だった

そして、自分自身でさも、敵だと認識し、彼と共に眠ろうとした。まだ不審感は残るが、今のところ、別の理由が考えられない。目の前にいる彼が、この件に、加害者として関わっていなければの話だが


「安心してくださいよ。僕は飛び下りようなんて、思ってませんから」
「本当に?」
「僕には、そんな勇気ありませんから」


鳥灯さんは笑って言い、視線を地面に落とした


「何度も飛び下りを考えた事はあります。でも、そんな勇気、出なかった。それこそ、小さい頃から、ずっと死にたいと思ってた」


それなのに、彼はそれを実行に移す事が出来なかった。自ら命を絶つという行為は、傍から見れば、愚鈍なものだろう。ただそう思うのは、その苦しみを理解していない、する事が出来ないからだ

自ら命を絶つという行為は、とてつもなく勇気のいる事だ。彼のように、死ぬ事が怖いと感じるのが、普通だから


「今でも時々思うんです。階段の踊場、歩道橋の上、ここから落ちたら死ねるのかなって。でも、怖かった。足がすくんだ。僕の居場所はどこにも無いのに、おかしいですよね」


そう言って、笑った彼は涙を流していた


「明日が訪れる事が、ずっと怖くて怖くて、逃げられなくて、」
「もう大丈夫です。大丈夫ですから」


むせび泣く彼を再び抱き締めて、落ち着かせた

彼は彼なりに、ずっと不安と絶望を抱えながら、頑張って生きていた。何があっても、僅かな希望を見出だしながら、一日一日を生きていた

そんな彼を責めるような事は、僕には出来なかった


「・・・落ち着きましたか?」


暫くすると、僕の体を押して、彼が離れたので訊いた


「はい。すみません、お見苦しいところを」


鼻をすすった彼は笑いながら謝った。こんな状況でも笑っていられる彼に、感心しなければならない


「もう少し僕を頼っても良いんですよ」
「いえ、そんな・・・。安室さんまで、危険な目に遭わせたくは無いので、僕は一人で大丈夫です」


鳥灯さんはまだ、自分が悪いと思っている


「鳥灯さん、僕は簡単に死にませんよ」
「・・・そんな事、言わないでください。信じてしまいそうになる」
「じゃあ、少しだけ信じてください」
「少しだけですよ?」


彼が人を信じられるタイプの人間かどうかは、まだ分かっていないが、少しだけでも信じてもらいたかった

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作者名:空白可能 | 作成日時:2021年4月7日 0時

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