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「うちで良いですよね?」
「勿論」
安室さんを部屋に上げて、奥の部屋に行く
「えっと、どうすれば良いですか?」
「服を脱いでもらっても?」
「分かりました」
彼に返事をして、着ていた大きめの服を脱いだ
「触りますね」
俺の傍に来た彼に頷いて返す。そうすれば、彼の手が俺の体に触れる。それがどうにも、くすぐったい。安室さんは、腕に手の平を滑らせ、注射器で刺された場所をなぞる
「体に異常はありませんか?」
「今のところは、特に無いです」
「ここは痛くないですか?」
針を何度も刺された場所を触りながら、彼は訊いて来る
「今は大丈夫です。打たれた時も、三回目ぐらいからは、ほとんど意識が無かったので」
意識というより、理性が無くなっていた、という方が正しいのかもしれない。快感に身を投じ、ほとんど何も分からなくなっていた
「・・・強力な薬だったんでしょうか」
「俺にはさっぱり。成分を調べれば、分かると思いますけどね」
「分かるんですか?」
「医療関係者に知り合いがいた事もあったので」
医療関係者と言っても、闇医者だったけれど
「一つ、お訊ねしたいのですが、前世の貴方のというのは、どんな?」
「普通の、とは言えませんが、今と変わらない人間でしたよ。見た目も変わりませんでしたし」
人間関係は、今ほど良くは無かったが、満足はしていた。これでも良いと思えるような人生だった。生きていて本当に良かったと思える瞬間もあった
それなのに
「霧花くん」
「あ・・・、何でしょう?」
肩を揺らされて、我に返り、安室さんに訊く
「貴方は、時々自分の世界に入ってしまいますね。何度か呼び掛けても、返事をくれないので、少し心配になります」
「・・・すみません。前の事を思い出してしまって」
昔を思い出してしまうと、他の人の声が聞こえなくなってしまうようで、触れられるまで、全く気付けない
「なるほど。僕もたまにありますよ」
「そうなんですか?」
「はい。僕もたまに昔を思い出して、ボーッとします」
「へぇ、」
確かに安室さんも、あの人の事を思い出して、ボーッとしていた事があったような気がした
「霧花くんには、大切な人はいますか?」
「いましたよ。本当に大切な人が」
「いました、ですか」
「今はいません。昔の話です」
そう、昔の話だ。俺に大切な人がいたのは。いなくなったから、俺は命を絶った。生きる意味を失ったから
それなら、今の俺には、生きる意味があるのだろうか
「霧花くん」
再び安室さんに触れられ、我に返った
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作者名:空白可能 | 作成日時:2020年11月11日 21時