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「・・・ねぇ、アンタは僕の事が嫌い?」


彼は僕に、小さな声で問い掛けた


「嫌いでは無いですよ」
「嫌いじゃない・・・」
「はい。もっと言えば、好きです」


そう言って笑えば、Aくんは掛け布団を頭まで被ってしまった


「Aくん?」
「おやすみ・・・!!」


声を掛けると、布団の中から聞こえた


「おやすみなさい」


彼に返して、自分の仕事を始める

少し嬉しかった。以前のAくんが僅かながらに戻って来たような感じがしたから

戻らなくても構わないが、戻って来てくれたのなら、それはそれで嬉しい。今の彼は僕が引き取った時よりも柔らかい口調、雰囲気になっている。感情が欠如しているせいもあるとは思う

感情が欠如している、と言って良いのか分からないけれど

ハロも泣き続けているAくんを心配して、ずっと傍に寄り添っていた。泣き始めた頃よりは、心が安定しているようにも思えるが、涙は止まっていない

先程の寝る時も涙が流れ落ちていた

明日がどうなるかは分からないが、泣き止んでいてほしいとは思う。好きな人が泣いているという状況は胸が苦しくなる

そんな事を考えながら、仕事を終わらせて、Aくんと少し離れた所で横になり、自分も眠る事にした

次の日、目を覚ますと、隣にAくんの姿が無かった。慌てて体を起こして、辺りを見渡した


「・・・Aくん、良かった」


ベランダに出るガラス戸の前に彼はいた。彼はこちらに背を向けて、いつかのように、空を見上げていた


「どこかに行ったかと思った?」
「ええ、少しだけ。もう平気なんですか?」


話し方が安定していたので、彼の背中に問い掛けた


「大丈夫では無いかな。涙が止まらないんだ」
「そうでしたか・・・。一度、顔を洗いましょうか。その後に涙を拭きましょう」
「分かった」


返事をした彼は立ち上がる


「待ってください。今そちらに行きますので」


ふらついた様子のAくんを支えようと思い、自分も立ち上がる


「良いよ。触らなくて」
「僕に触れられるのが、嫌ですか?」
「嫌じゃないけど・・・」
「では、支えるぐらいはさせてください」


彼の傍に行き、体を支える

傍に近付いてみて、Aくんが涙が止まらない事が本当なのだと分かった。溢れ落ちる雫は、彼の着ている紺色のシャツにシミを作っていた

何度か擦ったのか、目元が赤くなっている


「顔を洗った後、目元を冷やしましょうね」


洗面所まで、彼と一緒に歩きながら言った

頷いたAくんは、目元を擦ろうとしていたので、それを止めようと、彼の手首を掴んだ

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作者名:空白可能 | 作成日時:2020年3月16日 23時

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