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「刺し傷は、一度だけ刺されただけじゃなくて、何度も執拗に刺されてる。相当な想いがあるんでしょうね。殺したい程の憎しみか、それ以上の行き過ぎた愛情か・・・」


言葉を切った志保ちゃんは、溜め息に似た息を吐いた


「どちらにしろ、歪んだ人間のやる事よ」
「それが誰かを早く見付けないと、ですね」
「ええ。何か分かったら、また連絡するから」


志保ちゃんに頷いて返し、今日のところは帰る事にした。Aくんの事も気になるので、急いで帰る

玄関の鍵は開いており、すんなり入る事が出来た。しかし、電気は点いていなかった。部屋の中は暗く、ハロがこちらに走って来る様子も無い

そっと中に入り、奥の部屋に向かう

奥の部屋に行くと、布団の中で、ハロと一緒にAくんは眠っていた。この間の事もあるので、触れて起こす事は出来ない


「Aくん、起きてください」


電気を点けて、声を掛けながら、彼の被っている布団を剥いだ


「うぅん・・・」
「お疲れでしょうけど、起きてください」


不愉快そうに顔を歪めて、ハロの事を抱き締める彼に言えば、薄く目を開いた。Aくんは、小さく欠伸をして、体を起こした


「おはようございます」
「おはよ・・・」


寝起きの声で、彼は返事をする


「よく眠れましたか?」
「ハロが近くにいてくれたから」
「そうでしたか。でも、今から晩御飯なので、起きていてくださいね」


そう言うと、彼は眠そうにしながらも頷いた

まだ眠っているハロを抱えたAくんを布団に残して、自分は晩御飯の準備を始める。野菜炒めとご飯を用意する。この間は、何がいけなかったのかが分からない為、以前まで食べられたものを用意した


「出来ましたよ」
「今行く」


声を掛けて、こちらに来るように言えば、ハロを隣に置いて、彼は立ち上がる


「今日は野菜炒めとご飯です。美味しく出来たと思いますよ」


隣に来たAくんに言うと、どこかホッとしたような様子だった。やはり何かしらの恐怖があるのだろう


「Aくん、後で訊きたい事があるのですが、良いですか?」


席に座ろうとした彼に問い掛けると、ビクリと肩を揺らした。こちらを見た彼は、ひどく辛そうな表情をしていた


「無理には訊きません。ただ僕は、いつかは教えてほしいと思っています。君が理解を求めていなくても、僕は少しでも君を理解したい、分かりたいと思っています」


それは、ただの建前だと分かっていた

彼を理解したいと思うのは本音だが、それ以上に、Aくんの父親の事についての真実を知りたいと思っていた

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作者名:空白可能 | 作成日時:2020年3月1日 0時

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