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台所で自分の胸元辺りを握り締めた。微かに手に伝わる感触は、いつもより速く感じた
小さな声で言った時の彼の表情。それは初めて、ハロを撫でた時の表情とは全く違って、柔らかい、なんてものじゃなかった
ハロに向かって微笑むAくんの表情は、年相応よりも幼くて、簡単な言葉では言い表せない。儚さや可愛さ、美しさ、全てが混じったような、そんな表情だった
語彙力を喪失させて言えば、慈愛に満ちた天使のようだった
｢･･･ご飯、作ろう｣
自分の気持ちを抑える為に、昼食を作り始めた
｢Aくん、出来ましたよ｣
｢ん。ハロ、ちょっとだけ、ごめんね｣
膝の上にいるハロの事を優しく横によけた
｢いつまでそこにいるつもり？｣
｢はい？｣
｢動いちゃダメって言ったの、アンタだろ｣
｢そ、そうでしたね｣
両手をこちらに向けて広げている彼のもとに行き、抱き上げた
｢抵抗はしないんですね｣
｢抵抗っていうのは、意味がある時にしかしちゃいけない。人の抵抗ってそういうもんでしょ｣
｢うーん･･･｣
彼の言っている事は分からなくは無いが、抵抗という概念が少し違っているようにも思えた
｢そう言えば、学校には馴染めそうですか？｣
｢さぁね。かなり休んでるから、難しいかもね｣
｢･･･すみません｣
｢別にアンタのせいだとは言ってない。実際、悪いのはアンタじゃないしな｣
そう言われたが、今回の件は完全に僕がAくんを巻き込んでしまった。怪我を負わせた上に、心も傷付けてしまった
｢後で、少しだけ話があります｣
｢いくつか質問があるんだっけ？今でも良いよ｣
｢はい。今、話す内容では無いので、後で良いです｣
そう言うと、彼は内容を把握したようで、手を合わせて、昼食を食べ始める
｢美味しいですか？｣
｢美味しいよ。病院食は健康的で良いけど、僕の口には合わなくてね｣
｢そうでしたか。お口に合って、良かったです｣
Aくんの好みは全く分からないので、口に合って、美味しいと言ってもらえただけでも喜ぶべきだろう
｢何か食べたいものはありますか？｣
｢無い。野菜が嫌いなだけ｣
｢他に嫌いなものなどは？｣
｢魚介類とか、甘いものとか、苦いものとか、果物とかも、あんまり好きじゃない｣
訊くと彼は答えた
｢･･･ほとんどのものが苦手なんですか？｣
｢苦手だな。前にも嫌いなものは多いって言っただろ｣
｢そう、でしたけど･･･｣
Aくんは、用意されたものなら、何でも食べていたので、ここまで苦手なものの範囲が広いとは思わなかった
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作成日時：2020年2月10日 22時
