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「いただきます」
「い、いただきます」
向かいの席に座った彼につられて手を合わせる。お箸を持ち、Aくんは、自分で作ったという晩御飯を食べ始める
「毒なんて入れてないよ」
「そんな事、」
「他人の作ったヤツなんて食べたくないんだろ。知ってるよ」
そう言った彼はお味噌汁を飲み、晩御飯を飲み込んでいく。彼がそこまでして、やっと自分の手も動いた
「・・・美味しいです」
「あっそ」
温かいお味噌汁を飲むと、自分で作ったものよりも美味しく感じた。それを口にすれば、淡白な返事が返って来る
「左手で持つんですね、お箸」
「僕は左利きだ」
「そうでしたか」
普通に返された答え。Aくんは左利き。では何故、メロンを食べる時は右手だったのだろうか
「そう言えば、何でいきなり晩御飯なんて?僕はてっきり君が怒っているのだと思っていたんですが・・・」
「今後一切、僕の前でアイツの話はしないで。それだけ約束してくれるなら許す」
「・・・分かりました」
病院での事は、あまり深く突っ込んで訊けるようなものでは無い。それは身に染みて分かった
「つまり、これは僕と仲直りする為に作ってくれたんですね?」
「ごほっ」
訊くと、彼は食べていたご飯を喉に詰まらせたのか、むせてしまう
「ち、違う!!別にアンタの為に作ったんじゃ無いからな!!ついでだって言ってるだろ!!勘違いするなよ!!」
「それは残念です」
顔を赤くして否定されても説得力に欠ける。だが、それを言えば、また彼が怒ってしまいそうで、今度こそ、仲直り出来ないような気がした
「お料理、出来るんですね」
「・・・ほとんど一人暮らしみたいなもんだったからね」
「すみません。でも、本当に美味しいです」
「僕が作ったんだから、当たり前だ」
ふん、と鼻を鳴らして彼は当然のように言った
「ご馳走様でした」
「ご馳走様。片付けは僕がするから、風呂にでも入って、」
「僕がしますよ。僕に気を使わなくても大丈夫です」
「僕がしてやるって言ってるんだから、さっさと入って来い」
そう言われると、断りづらい。断ったら、彼に余計なお世話だと言っているようなもので、引くしか無いようだ
「僕を言いくるめるのがお上手ですね、Aくんは」
「それほどでもない」
そう言った彼に少しの笑みを溢すが、お風呂で一人になって考えた
今の彼は、言い方にトゲはあるものの、僕と生活を始めた頃よりも、幾分か柔らかい。彼の中で、何があったのかが気になった
彼の考えている事は分からない。何かを企んでいる感じもしない
考えても、何も答えは出なかった
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作成日時:2020年2月10日 22時