風見さんの新しい部下【男主】４ (ページ3)

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退職届は問題なく、受理され、俺は一般人になった。退職届なので、受理される、されないも何も無いのだけど

｢ただいま。ハロ｣

パッと行って、パッと帰って来たので、ハロと戯れる時間が沢山ある。これからは、沢山時間がある。なんなら、ずっと遊んでいられる

｢それも悪くないかもな･･･｣

そうは思ったが、この家で零さんに会うのは、少し気まずい事であり、零さん自体、どちらを望んでいたのかも分からない

何故だか、俺の起きている時に家に帰って来ない零さんは何を思っているのかも不明だ

｢ハロー、お前とはもうお別れだなぁ｣

ハロは何を言っているのか分からないらしく、首を傾げた。それが可愛くて、少し離れるのが惜しくなってしまう

｢零さんによろしくな｣

ハロにそう言って、床にそっと放した

新聞に入っていたチラシの裏にボールペンで、零さんにメッセージを書き、テーブルに置いた

着ていたスーツから私服に着替えて、財布を持ち、家を出る事にした

歩いて回る町並みは、いつもと変わらない。大体そんなものだ。誰かが哀しもうと苦しもうと世界は変わらない

電車に揺られて、遠い所まで来ていた。電車には誰も乗っておらず、一人で窓の外を見ていた

終点に着いて、一人でその駅に降りた

｢いつ来ても、ど田舎だな。ここは｣

懐かしい風景が目に入って、自然と笑みが溢れた

｢何年振りだろうな｣

久し振りに来た場所は、懐かしさと共に、微かな痛みを胸に刺して来る

｢今から俺もそっちに行くからな。もう少し、待っていてくれ｣

駅から吹き抜ける風に背中を押されながら、一人言を漏らす

懐かしい場所を巡り、昔の想い出に浸る。大好きな彼女と大好きな娘、そして、俺で静かな海岸でピクニックを楽しんだ事があった

娘はこの場所を気に入り、休みの日に何度か来た

海岸で一人、ボーッと座って、海を眺めていた。空は青く澄んでいて、とても綺麗だ。彼女と娘の瞳もそんな綺麗な色だった

｢さて、行くかな｣

靴を脱いで、靴下も脱いで、立ち上がり、砂浜を素足で踏みしめた。波打ち際まで歩き後ろを振り返れば、しっかりと自分の歩いた足跡が残っていた

それもまた、いつかは消えて無くなる

そして、誰も気付く事も無く、ここには誰もいなかった事になる

靴も靴下も、ただのゴミになる

今の自分のように

海に向き直り、ゆっくりと一歩を踏み出して行く。足には確かな冷たさがあった。だけど、歩みを止められる訳が無かった

このまま歩いて行けば、海に溶け込めそうで、愛しい二人のもとに行ける気がして、歩みは止まらなかった