�� ページ33
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「ん？」
「な、なんでもない」
逃れられない俺の中でもぞっと動く。
照れてるのがわかる。あーかわいい。
そういうところだよ、本当に。
「誰でもじゃないよ」
「聞こえてるじゃん」
「聞こえちゃったんだよね〜」
「あーはいはい」
遇らうように流すと、俺はAちゃんの耳元に近づいて、そっと呟いた。
「ね、なんでそんなこと言ったの？」
「酔ってるよね」
「酔ってない」
「あーもーやだ。川上さん……は怒られたらやだし、河村さーん起きてー！」
「答えてよ。ほら〜」
観念したようにはあとため息を吐くと、耳をすまさないと聞こえないくらいに小さく答えた。
「こんなことされたら、相手の子かわいそうだなーって」
「ムードないな！？ そこは『伊沢さんに惚れちゃうじゃんっ、ばかぁっ』でしょ！」
「なんでそんなこと期待されてるのかなー」
隙をついて俺の胸の内から離れたAちゃんはいたずらっ子のようにへへへと笑って舌を出した。
こいつ、わかってたな〜。
でも、ちょっと顔が赤いのを見ると酒の匂いのせいか、もしくは言葉のせいか。
どっちでもいいけどよ。あー、逃げられた！
「そりゃ逃げるよね」
「口に出てた？」
「うん。で、それで？」
「どうしたの」
「それだけじゃないでしょ。言いたいこと」
そして、Aちゃんは俺のことをよーくわかってる。あーはい、そうです。俺の言いたいことはそんなんじゃない。
お手上げほいほいですね。そういうところだぞAちゃん。
「……さ、俺が寝言で『A』って言ってたんだってね」
「そうだね。びっくりした。
久々に聞いた気がしたからね」
「そんとき、流れで久々に名前で呼んだじゃん。なんか、懐かしくなっちゃった」
「何年ぶり？ って感じだった！」
「……夢ね、昔の俺たちだった」
急に静まる空間に居心地が悪くなり微かに震える手が自分の目にとまる。
すると、Aちゃんは視界にとまった膝の上にある俺の手をとってぶんぶんと振った。
「なにをしんみりしてるかわかんないけど、伊沢さんは今の私じゃ嫌いになっちゃう？」
「いや、好き。結婚して」
「酔ってるからってなんでも許されると思うなよ？ 覚ましてね、水持ってくる」
彼女はふらついた足取りで天然水を取りに行く。
手を思いっきり引き寄せても良かったんだけど、俺は弱虫だからできなかった。
「ずっと前から、覚めてるよ」
弱虫だから、伝えられなかった。
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