ゆめ ／伊沢 ページ29
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幻想的な空間に立っていた。ここがどこなのかわからないが、うっすらと遠くに見慣れた姿を見た。
Aちゃんが笑っていた。
いつものはにかみ笑顔を浮かべながら、「伊沢さん！」と呼んでいた。
駆け寄るために足を一歩踏み出したところで、どん底に落ちていくように足元から何もない暗闇へ落ちていく。声も出ずにヒュッと息の音がした。
「拓司、どうしてクイズがあんなに完璧に答えられるの？」
「完璧じゃないよ。何事も完璧ってことはないんだ。
でも、Aもクイズは答えられるでしょ？」
「それはそうなんだけど……ほら、出演してる番組とかを見ると解説も完璧だし、コメントも完璧だし……」
「だから、完璧はないって。でも、ありがとう。……まあ、最初のコメント演習を助けてくれたのは君だよ？」
「そうだっけ」
いつの会話だろうか。俺らがまだ拓司とAと呼んでいたあの頃。
Aちゃんと俺は仕事の関係で
「Aちゃん」、「伊沢さん」と呼び合っていたのがいつのまにか定着してしまい現状なのだが……寂しいよね。
時折言っちゃうけど……まあ、まあ。
……鼓動の音がする。おそらくそれは俺のもので、
目の前の2人は楽しそうに笑っていて、幸せそうだった。
A。どうしてこんなにも遠く感じるのだろうか。
映像が乱れるようにザザザとノイズをたてながら表情が変わる2人。
音が聞こえないほどその楽しげな会話に耳を傾けてしまっていて、思わずため息をついた。ため息をついた瞬間、太陽の光が目を眩ませた。
「わっ」
「お、伊沢さん起きたー」
「おはようございますー」
「ふくらさん……Aちゃん？」
「そうだよー」
「伊沢さんなんの夢見てたの？ 寝言聞いてAちゃんがクスクス笑ってたよ」
「それは言わない約束ですよ！ やめてください！」
「えー？ 俺なんて言ってたの？」
ふくらさんが僕と視線を交わらせる。
何やらニヤニヤしながらこちらの様子を伺うので再度問うと、「寝言でAって呼んでたよ」と教えてくれた。
「えー何それ恥ずい」
「ずっと前みたい！」
「前は2人とも呼びタメって聞きましたよ〜？」
「もー。なんちゅーこと教えてるのー」
「えへへ、ふくらさんが気になるーって言ったから！」
「まあま、これからもよろしくお願いしますよ、A」
「ふ、こちらこそお願いしますー。拓司！」
「いい感じにまとまったね」
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