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「川上さんはどうしてクイズ研究会に？」
「中学からやってたからですかね。真面目にやり出したのは高校生からなんであれですけど」
「クイズの専門家だ」
「そこまで。ちなみにAちゃんは？」
「私は早押しが苦手だから」
「そうなんですね。じゃあ、なんで早押しボタンを？」
聞くと、誤魔化すようにふっと笑う少女。
少し悲しそうな瞳の色を見せるからドキリとする。
キュッと胸が締め付けられるように、なんだか息がしづらくなった。
「憧れるんですよ。伊沢さんがいつも軽々と押しているボタン。
ここを押すだけで自分の世界を再認識できるんです。……羨ましい」
「クイズって遠回りですけど、無駄な知識も新しい世界に繋がりますもんね」
「ペーパーで受かって何度も思いました。私に競技クイズの才能があればいいのにって」
黒と白のデザインの早押し機のボタン部分を深く押さず、軽くカチカチと音を鳴らす程度に指を動かすAちゃん。僕はそれに手を伸ばして、Aちゃんの親指を一緒に挟んでボタンを押した。
ピコンと音がなる。
「え？」
「やりましょ。クイズ」
「ど、どういう？」
「僕がボタン押せばAちゃんが答えれる。
っていうクイズのタッグチーム作りましょ？」
思い切った誘いだった。
でも、Aちゃんとクイズをプレイしたいって心底思った。
どうしてだろう。揺れ動かされた記憶はないのに。
揺れ動いた瞳が脳裏をよぎるだけで、なにも感じてないはずなのに。
僕は少女の小さな手を包んでいる。
温い。僕は本気だった。
「……わかりました。じゃあ、落ち着いてからやりましょう！」
「ふふっ、Aちゃんの倒したい相手は？」
「もちろん伊沢さんですけど！ まずはTQCのみんなをぼこします！」
「宣言したやん。TQCは手強い人多いよ」
「知ってます。噂もちょくちょく聞いてるんで！ でも、川上さんがいるんだから大丈夫！ ……ですよね？」
「大丈夫でしょ。一緒にがんばりましょうね」
「はい！」
花が咲いたように明るい笑顔を浮かべるAちゃん。
そして、僕の小指を少女の小指と絡ませて指切りげんまんをした。
空は相変わらず青くて、夏が、ずっと続くようだった。
──遠い昔の約束になってしまうが、Aさんは覚えているだろうか。
まだ果たせていないあの約束を、果たせる日が来れたら。
と、まあ懐かしいことを真夏日が続く日々の中ふと思い出していたのだ。
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