おえかき ／志賀 r ページ19
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「志賀さん！！」
「はい？」
「お絵かきしよう！！」
「またあなたも唐突ですね……」
「たまたま寄った本屋に画材が売っててさ。
何がいいのかわかんないけどネットのレビュー見て買った」
Aさんが腕に抱えて持ってきた沢山の物を広げる。
質のいい鉛筆。色が多くある色鉛筆の種類を見て私はギョッと驚いた。どれも初心者が手を出すような代物ではない……。
「『お絵かき』って。どのレベルです？」
「子供が描きそうな絵！」
でも、本人はハードルを低くするようにらくがきちょうを机に出した。
「志賀さんにもあげるー。あ、100均のじゃやだ？」
「いえ。私も懐かしいなんて思っちゃいましたから。
いいですよ。こっちで描きます」
Aさんかららくがきちょうと鉛筆と消しゴムを受け取ると表紙をめくる。
そして、何を描こうかなあなんて悩んだとき、視界に入るのは電車を一生懸命に描くAさん。
「外行かないなら写真見ればいいじゃないですか」
「一昨日くらいにいい感じに撮れたのがあるはず」
「これ、路面電車？」
「うん。この前野暮用で山本さんの大学まで行った時に見つけちゃってさ」
そう言って画面をスライドすると綺麗な景色と電車がたくさん写真に収められている。
山本さんと一緒だったのか、Aさんが単体で写ってる写真もあった。
私の手のスピードは変わらないが、Aさんは雑談を交えながら手を動かしているのでゆっくり書きあがっていく路面電車を見て、ふと自分が笑ってしまっていることに気づく。
人と絵を描くのって、楽しいな。
どうしても美術は個人作業になりがちなので
久々に一緒に、という行動をとったのかもしれない。
Aさんは、やっぱりすごい人。
ふと、気づかせてくれる忘れた気持ちを蘇らせてくれるみたい。
この懐かしい──落書き帳だって。
「見て志賀さん」
「どうしました？」
「これ、志賀さん！」
途中まで書きあがった電車の下に存在する私。
かわいくアレンジしちゃってますけれど、なんだかきゅんとしちゃいまして。
「こんなかわいくないですよ」
「かわいいよ！ でもかっこよく描きたかったな？ 絵って難しいね」
そうしてはにかむAさん。
私が今、描いているあなたを見せたら、どんな反応を返してくれるでしょうか。
待ちきれなくて心が躍る。私は気持ちに引きずられていくかのように再び鉛筆を動かしていた。
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