終幕 ページ48
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梅雨だ。雨は強く叩きつけるように降り、バチバチと聞こえる音に耳を傾けながら窓辺でぼーっとするAちゃんの後ろ姿をなんとなく見つめていた。
ただ普通の、なんでもない日。
こんな日々が続けばいいと切に願ったのは割と最近のことであった。
それはAちゃんも同様らしく、部屋の片付けを率先して行ったり、準備をなんとなく着々と進めているようであった。
「Aちゃん」
「んあ、山本くん」
「今日ちょっと冷えるね。あったかいスープいれようか」
「本当？ 飲みますー」
頬を緩めるAちゃんのその顔にどきりとする。まだ慣れない。花が弾けて咲いたようなふんわりと抜群な笑みは僕をちくちくと痛めるのに違いはない。
無理して笑うよりもずっといい。たまに見つけるAちゃんの笑みはそれを感じさせるから、その度に手を握って「大丈夫」というのは幸せの一つなのだろうか。
僕にはまだわからなかった。
しかし、確かなものはあった。
僕がAちゃんのことを大好きで……愛していて……ずっと、一緒だったらいいのにって。その言葉は嘘ではない。証拠に形としてこの家に隠れている。まだこの時期ではないと……。
彼女宛のスープをかき混ぜてから届ける。Aちゃんの後ろ姿。手には先ほどまで読んでいなかった薄ピンク色の本があった。僕にはそれが見覚えのあるものだ。そして、数日前、それにたくさん書き込んだ覚えがあるのだ。
「……、Aちゃん！」
「わっ！！ び、びっくりさせないでよ！」
珍しく動揺を見せるAちゃんの赤く染まった頬と、本のページで全てを察してしまった。
「み、見たよね」
「見ちゃった……ごめん、えろ本かと……」
「ねえ！」
勝手に見たことよりもそっちに怒るよ！！ え、いや、そうじゃないけどさ！
Aちゃんがコホンと軽く咳払いすると、僕もつられるように姿勢を正す。でも、僕の中での意思はすでに決まっていた。小柄なAちゃんの冷えた手をぎゅっとして、目を合わせる。
「……、もう言うよ」
「え！ 心の準備が」
「どうせ僕たち、自然と行動に移しているもん。Aちゃんの部屋の片付けとかさ。ね？
Aちゃん。僕、Aちゃんと一緒にいるとずっと幸せになれると思うんだ。君の隣が好きなんだ。
まるで漫画みたいな展開だけど、これも僕たちらしさだと、思う。
……僕と結婚してください」
そう言ってキスをしてしまったけれど、いやなら早く、引っ叩いてよ！
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