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「私の幼馴染なんですよ」
「幼馴染？」
「極悪上等、口の悪〜い地元では有名なクイズプレイヤーで、名前はコミナト サイくん」
古湊才。僕がクイズを始めた時、エスカレーター式で一緒に上がってきた友達から聞いた名前と同じだった。
名の知れたクイズプレイヤーで、両親が才能に特別溢れており、彼もまたその1人だと。成績優秀。容姿端麗。運動神経抜群で謂わば完璧人間を誇ってもおかしくない。ただひとつ言えるのは、性格が悪い、と。
まさにその通りだなと心底思った。でも、その人と幼馴染だったからこそこの水瀬さんがいると思うとやるせない気持ちでいっぱいになった。水瀬さんは僕の心情を察したのか苦笑いを浮かべた。
「山本さんは気にしなくていいんだよ」
「水瀬さんは？」
「私が弱いだけ。
……ほんとは彼が競技クイズをしなくなってあたったことがあって、口論してからあの調子なんだあ。だからいつも通り」
そう言って笑う水瀬さんの顔は影があって、僕も上手に言葉が出せなくなってしまった。
サークルに戻ると同級生や後輩が迎えてくれて、水瀬さんも変わらない笑顔を浮かべていた。僕は気がかりで水瀬さんをしばらく見ていたが、やがて友人に呼ばれその場を後にした。
時計が7を指し、暗い空を見て帰ろうかとした時、先ほどサークルのメンバーが集まっていた教室に明かりがついていることに気づいた。
気になって人気のない廊下を駆けて、ちらりと音を立てずに中の様子を伺うと、1人でボタンを持ったまま寝そべっている水瀬さんの姿があった。
早く帰らないと遅い時間になってしまう。
僕は教室に足を踏み込んで水瀬さんの真横に立つが、起き上がる様子がない。寝ているのだろうか。
控えめに肩を叩いて起こそうとした時、僕の悪い心が手を引っ込めさせた。
窓から吹き込んだ花の香りが、鼻を掠めた。
「僕はまだ弱いけど、いつか、ちゃんと、水上さんにも古湊にも負けを取らないくらいの強い人に、一緒になろう。
ねえ、水瀬Aさん、好きになりました。あなたのそばにずっといたいって思いました。次は起きてる時に伝えるから、待っててください」
寝てる時に言うだなんてずるい男。
でも、かすれた声で「まってる」と水瀬さんの返事が聞こえた気がして冷静になり焦ったが、無理やり起こした水瀬さんは寝ぼけていたので幻聴かと落ち着かせた。
待ってて。告白未遂だから、今度こそ。
弱い心を隠すようにして拳をつくっていた。
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