… ページ40
.
「……、水瀬さんは？」
「あれ？ Aちゃん今日は来るって言ってたよ」
「だっ、大学には？」
「ご、ごめん。わかんない」
そう言って首を振る僕よりも背が高い女性は、他の生徒に呼ばれて小さく頭を下げてから人混みに紛れていった。僕は時間を確認する──もう、きてもおかしくないのだが。番組のこともあり、また、来年度のクイズ研究会のミーティングでもしようかとできる人は集まるように声をかけていたが、もしや伝わっていないのか。そんなこと、とは思った。思ったからこそ無性に焦った。誰にもなにも言わずそのまま席を抜けて、スマートフォンを取り出す。
水瀬A。水瀬Aさん。
電話が繋ぐことはない。彼女の教室に足を運ぶべきか。確かにそれは懸命だったが、どの思考を読んだところで冷静になったとは今考えてみると到底思えなかった。
僕は校内の階段を恐怖も覚えず下っていくと、ひとりの男生徒に絡まれているAちゃんを偶然見つけた。僕は咄嗟に壁の陰に隠れる。隠れる理由はないけれど僕の最初の思考がこれだった。以降、何も考えていなかったので堂々と出ることができなかったが。
息をころしてこっそりと様子を伺うと、小さな声で口論が聞こえた。
「もういいですか？ これから用事があるので構ってる暇がないんですよ」
「どうせあのクイズサークルだろ？ いいって。テレビに派手に出演したくせに負けてんだし」
「負けても、彼らはよくがんばりましたよ？」
「……そうだなぁ、彼らは、がんばったなぁ」
「……何が言いたいん」
「ぷっ、睨まないでよ〜。……そんなん全然怖くねえよ。なめてんのか知らねえけど、そっちが弱者だろ。Aちゃん、逃げたもんねえ。そんな人に何言われてもなあ」
「ちょっといいですか」
壁際に迫られた水瀬さんを見て即座に危険だと判断した僕は2人の間に滑り込むようにして体を入れる。勢いに後退りした男生徒は顔をわかりやすく歪める。真正面から見た男生徒はかなりの美形で、劣悪さを感じない、周りの女の子からは人気の高そうなタイプだ。僕は綺麗な容姿に身動いだが、その場を動くことはできない。背後にいる水瀬さんは今どんな表情をしているかわからない。小さな声で「山本さん、……」と僕にしか聞こえない声で呟いたのだけ聞こえた。
「Aちゃんに、ご用ですか」
名前なんてちゃんと呼んだことがなかったのに、
この時は水瀬じゃなくて、Aが、無意識のうちに出てきた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 394人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
