未遂 ページ39
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「好きになりました」
花の香りが、鼻を掠めた。
番組放映から2ヶ月ほど過ぎただろうか。
当時の成績が良かったことも踏まえWQSSの吉岡と神山と共に再度伊沢さん、水上さん、鶴崎さんに1ヶ月後挑むことになった。今回、水瀬は都合が悪いとのことで補欠をWQSSのメンバーから用意した。あの番組にまた呼んでいただけたことに嬉しさもあったが、また、惜しいところまでいっていた悔しさも舞い戻ってくる。
僕たちは翌る日もクイズを答え続けた。全てはあの時の敗戦のリベンジだ。練習には水瀬はもちろん、WQSSのみんなも参加して対戦だというのにワイワイとしたものだった。Aちゃんの瞳がこちらを向くたび、ドクンと胸が高鳴って同時に水上さんの薄い笑みを思い出していた。わざわざ、どうして。……確かにあの現場で言われたことだったが、僕はまだ否定していたかった。
あの時、ふくらさんや須貝さんに話した水コンビの秘話には続きがあった。
「Aさんのこと、好きなんでしょう」
「……な、なにを」
「見てればわかりますよ。そりゃ、初対面の僕に理解しちゃってるんですからそれほどわかりやすいんですよ。あっちは鈍感なだけで、きっと同じチームメンバーも気づいてると思いますよ」
後日、吉岡と神山に聞くと水上さんの言っていた通りであった。わかりやすいらしい。
自然と目で追う彼女の背中。ぼーっとしている講義中、思い返せば頭に思い浮かべるのは水瀬さん。番組に出演して以降遭遇するのはサークル以外でほぼありえなくなる癖して、青空に馳せる思いは収まり切らなかった。会いに行こうと思えば行けたのだろうか。僕も変なので、彼女のために違う学科のキャンパスに足を踏み入れるのはなぜか怖くて、何か、違った気がした。普段ならなにも思わないのに、むしろ足が竦んで動けなくなっていた。おかしい僕は置いておいて、サークルの僕を信じてクイズを答え続ける。
そんな日々を2ヶ月過ごして、本番がきた。
結果から言えば早い段階で敗退した。伊沢さん率いるチームも、芸能人も、大学クイズの強暴校も、僕たちよりも上回る強さであったことは違いなかった。僕たちは、負けた。それだけはその場に共通した全ての情報だった。
僕たちが大学に戻った時、WQSSのみんなは責めずに「がんばったね！」「俺はあの問題鶴崎より早くわかったよ」と様々な言葉をくれた。嬉しかった。浮かれていた。
だから、その場に彼女がいないことに気づくのが遅かった。
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