変化 ページ38
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「えへっ、山本くんー！」
「どうしたの、Aちゃん？」
「んー、なんでも」
「なんだあ、もう」
「……ねえ、あいつら性格違くない？」
「きもい」
「河村さん直球すぎてウケる」
「でも最近不機嫌だったしいいんじゃないんですかあ？」
「こうちゃんってマジで気づいてないの？」
伊沢さんが河村さん、川上さん、こうちゃん、ふくらさんがいるところに僕たちの話をしているようだが、おそらく聞いているであろうAちゃんも無視して僕の腕に自分の腕を遠慮なく絡んでくる。先ほどまで事務作業を行なっていたAちゃんの指先は異常なほど冷たくてぎゅっと掴んであっためようとすると、目が合ったAちゃんが目を細めたのがかわいくってちょっとだけ力を込めてしまった。
4人に迫るこうちゃん。くすくすと笑って答えを明かさないんだからこの人たちもいじわるなもんだなあ。僕も言ってないけど。仲良いって言われてるんだから言うべきなんだろうけれど、当日言った時のめちゃくちゃ驚いた顔が見たい。そんな好奇心。リアクション王のこうちゃんの反応を見たくないわけがないよね。と、そこで山森さんに話しかけられた。
「記事なんですが、ここら辺が不確かなので改変していただきたいなと」
「すぐ変えます」
Aちゃんごめんね、と山森さんは小さく頭を下げると、PCを立ち上げ昨晩提出した記事の課題点を無駄のない説明をしていく。彼女のバッサリと切った髪はいつのまにか伸び始めていて、時の流れをようやく感じた。
今までは長かったのか、短かったのか。初めは鶴崎さん水上さん伊沢さんとクイズで勝負するため番組に出演して、それがきっかけで僕とAちゃんがQuizKnockに入って、気持ちに気づいて付き合い始めて、ぼんやり浮かんだ幸せな日々を送ったと思えば今度は口きかなくなったり。でも、仲違いを防いでむしろ前よりも親交を深くして────思えば、よくここまで持ったものだ。
「なんて、思ってんじゃないよな」
「な、なぜわかったんです」
「Aちゃんを見る目がそう言ってた」
「えぇ……完敗ですね」
なにそれ、乾杯とかけてるの？ と苦笑したふくらさん。伊沢さんと、河村さんは目を見て笑って、明後日投稿する記事の最終調整に入った川上さんは、カーテンで仕切られた漆黒の夜空を見つめていた。真横には水瀬Aが眠っている。
今日も、今まで以上に幸せだった。
良くも悪くも、アルコールの匂いが興奮を煽った。
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