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「Aちゃん、起きてる？」
「んー……あー、山本くん？」
「そうそう。おはよう、Aちゃん」
「……おはよお」
眠そうに目をこするAちゃんはまだ呂律が回ってなく、いつもよりもくだけた口調で僕の名前を呼んだ。珍しい。僕の目の前でも酒は飲む方だが、賢いAちゃんは自分がどれくらい加減すれば酔って大事に至らないかをちゃんと知っている。だとすれば、鈴木さんが言った「体調が悪い」に関係があるのだろうか。
まあ、しかし。この状態のAちやんに何を問いかけたってぼんやりとした回答しか得られないと確信していたからあえて追求しなかった。しかし、数週間前のことを思い出すと今日の日は僕が約束を申し込んで断られた日なのだ。確かに仲間同士の飲み会も大切だし、それさえオープンにしろと束縛はしない。2人が自由に生きていく。それが僕たちが付き合っている間、暗黙のルールの一つだった。
だから、Aちゃんは僕の隣に女の子がいても、逆にAちゃんの隣に僕よりもずっとかっこいい男性がいても、誰も何も答えを明かすことはなかった。それがただの友達だとしても、たった一瞬の感情である嫉妬は2人とも、いや、僕だけかもしれないが、隠してきたつもりだった。僕たちは秘密を共有しないし、奔放的だった。それは彼女の性格もあるかもしれないが、僕も自由が居心地よかった。だからかもしれない。なんとなく、こんなことしちゃいけないと、言っちゃいけないとリミッターを自分で掛け始めたのは。
でも、それを解除したのは紛れも無い僕の本質だった。赴くままに行動した故が、あれだった。あまり後悔していないのもひとつ。むしろ、あれがきっかけで僕たちは変われる。そう思った。
今日、伊沢さんに声をかけられた。
「山本、ちょっといいか？」
「あ……はい、なんでしょう？」
「Aちゃんと上手くやってる？」
「そうですね。ドタバタですけど、なんとか」
「ふーん。まあ、俺を騙そうたって5年はえーよ」
「やけにリアルな数字。やっぱり、気づいてましたよね」
「まあな。こうちゃんあたりはわかんないけど河村は気づいてやけに水瀬に絡みに行ってた。流石は正反対の人間ってところか。山本じゃなくて水瀬に行ったのは正解だな」
「……」
「あー、泣きそうになるなよ。俺たちだってお前らを心配してるんだ。いい結果残せるようにがんばってるみたいだけど張り切りすぎも辛いって。俺に話せるなら話してみない？」
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