明後日 ページ33
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「はいどうも！ QuizKnock編集長の伊沢です！」
「河村です」
「山本です！」
「ライターのこうちゃんです」
始まった今日一本目の撮影。出題者にふくらさんが構え、裏方には山森さんとAちゃんが入っていた。しかし、Aちゃんの様子が何かおかしかった。どこか、遠くを見ているようだったのだ。
今日は二人別行動でいたので、集合はちょうど一緒の時間となることはなかった。僕が用事を終えてオフィスに来ると既にAちゃんはいたが、その時は伊沢さんと仲良く話している様子だったし、挨拶をしたら「こんにちは」と真っ先に返してくれたのはAちゃんだった。
どこもおかしくなかった。撮影が始まる前までは。
撮影が始まってから明後日の方向をずっと見つめているのだ。無論問題を画面に出したり、ちゃんとした仕事はこなしているため誰も撮影中に文句は言わない。だが、流石にみんな異変には気づいているようでみんなして視線を目配せして首を傾げていた。
撮影が終わり、みんなで異変を確かめよう。そう思って最後は伊沢さんの〆で終わる。そして、その次の瞬間に「お疲れさまです」といつもの笑顔で笑った。
「A……」
「みんなしてどうしたの？」
「なんか、最近悩んでることある？」
「……ないけど？」
しらばっくれてるとかそんなんじゃなくて、Aちゃんは本当に純粋な瞳で僕たちに問いかけ返した。それに僕たちは何も言えなくなって、本日二本目の動画撮影の準備を進めた。その間も、Aちゃんは絶えぬ笑顔を浮かべていて、先ほど感じていた異変はどこにもなかった。……二本目以降の撮影も、一本目の時が嘘みたいだった。
そして帰り。
伊沢さんから一人呼び出されて話を聞くと、「Aの様子おかしいよな？」と、何かあったのかと問いただされたが僕にはさっぱりわからないことだった。今日は予報外れの雨がよく降ってさらに暗い夜空が僕らの真上に渦巻いている。僕は折畳み傘をAちゃんの横でさすと、いーれてと入ってきたAちゃんの瞳を見つめた。
「なに、どうしたの？」
「……い、いやっ、傘持ってないの？」
「忘れてきちゃった」
「そっか。ん」
「ありがとー……？ なんかぼーっとしてない？」
それは、Aちゃんじゃんか！
息を飲み込んだ。そんな疑問も聞けなくなってしまった。
最寄りへ向かう間も彼女の変わったところは見受けられない。
……問答は水たまりの闇の中に。
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