その後 ページ32
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僕はあれ以来、Aちゃんの顔を直視することが難しくなっていた。こうちゃんがなんかあったの？ と心配してくれたが、流石伊沢さんと言ったところか。Aちゃんとなにかあったことは明白だがそれが良い方向であることに感づいている。証拠にニヤニヤしてこっちを見てる。そう考えると僕、本当に女々しいな。
僕がどうしてこんなにも気に病んでいるかって。大してキスをしたこと自体に何かを申し立てることはない。それは付き合い始めた僕とAちゃんが1番はじめにした約束に関係している。
Aちゃんは利己主義なので“自分が幸せならそれでよし”だ。それは他人にかかる一切の負担を省みないということで。簡単に約束を言うならば、相手のことは気にせずにしたいことをする、ということだ。たぶん、掲げるカップルの約束の異例だが、僕たちはそのおかげで何かと自由だったことは間違いない。
問題は嫉妬心と衝動だ。理性を保ったままでない僕は、それに駆られてAちゃんを見ることができなかった。自尊心がどうかとかそんなのは関係なく、単純に、負けてしまった。水上さんや鶴崎さんに。それで、無理やりしてしまったことだ。……無理がダメだったと思う。
特別女性関係から疎かったわけでもない。伊沢さんや川上さんたちとは違って僕は共学を通ってきたし、何度か恋愛感情を抱いたり、それこそ失恋もしたものだ。けれど、Aちゃんという存在は異質だった。
同じワークパートナーでもあり、将来的に考えられるパートナーでもあった、他の人とは学校という限られた枠の中で生きていた感情なんだと、Aちゃんと付き合い始めていずれか、そう思うようになっていった。つまり、学校外ではなんの効力も持たない感情であることが変化したってことなんだけど。僕もきっと、二十歳を越えて将来性を考えるようになってきたのだろうか。
話を戻すと、それほど想う気持ちも大きいものだから大切にしていきたいというものなのだろう。無意識に考えて、Aちゃんのことをまるで記念物のように丁寧に扱いすぎた。悪いことではないけれど、もしかしたら僕たちには少しの矛盾とすれ違いが常々起こっていたものなのかもしれない。
……なんとなく、伊沢さんは、それをずっと教えてくれていた気がする。考えてることやすることは一緒なのに、相談する先も伊沢さんで、一緒だった僕たち。でも、間違いで、僕たちは僕たちでお話しなくちゃならなかった。
今後に向けて。
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