バレンタイン ページ29
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「わ、バレンタインなのにみんな暇なの？」
「俺たちは行事にとらわれないので〜」
「山森さんに貰ったからいいでーす」
「まだあげるなんて言ってないです」
こんにちはと言って呑気にオフィスに入って来たのはぴょんと頭にあほ毛が出てるAちゃんだった。Aちゃんはオフィスにいる男のかたまりを見てそう揶揄するが、伊沢さんと須貝さんは反発するかのように山森さんから貰った可愛らしい包装をしたチョコレートを見せびらかした。が、Aちゃんはから笑いするだけで流し、荷物を置いて息をついた時に言ったAちゃんの言葉に一瞬空気が固まったのを感じた。
「え、くれないの？」
「ふくらさんにはあげる！」
「複雑〜……目線が痛いよ〜！」
「だってママだもんね。日頃の感謝。勤労感謝の日」
「何かが違う……」
「俺編集長だよー！ 勤労感謝してー！」
「いや、バレンタインです今日」
冷静にツッコミを入れる川上さんはソファであったまりながらネットサーフィン中だ。Aちゃんに群がるもんだからさりげなーく輪に入って距離を離そうとすると、伊沢さんがにやにやしてるのを見て怖じけずいてちょっと手を引っ込めた。ごめん。まあ本人はなにもわかっていない様子で首を傾げていたのでよかったのかな。よくない。自覚して。と、Aちゃんが。
「山本くんも欲しいの？」
貰えるものだと思ってた。
動揺して動けなくなった僕をAちゃんは笑いながら肩を揺する。当たり前なんてどこにもないよね……僕が悪かったですと後悔の念に押しつぶされそうになっていると、ごめんごめんと笑って、後でね。ニヤッと笑った顔。脳裏に焼きつく。……キュンとした。
「ホントお前ら」
「ふふ、山本くんは特別だからっ」
「僕は？」
「ママ」
「……僕は？」
「祥彰くん」
「それパパってことでしょ」
「俺は！」
「ナイスガイ！」
「そうじゃないーーい！」
合ってるじゃんとここに来てずっと笑いっぱなしのAちゃん。
この子、ふくらさんがママの時だけ僕を祥彰って呼ぶから今日はひっかけられてよかったと思っていたら、川上さんに肩をチョンチョンってされた。ああーーバレてる。
その後、観念したAちゃんはチョコレートを配ったが、僕は配られなくて「浮気か〜？」なんて遊んでたけれどお家に帰って他の人とは違うデコレーションが施されたチョコレートを見てにやけちゃうのでした。ハッピーバレンタイン。
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