風邪 ページ28
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「おはよ、なんか顔色悪くない？」
日曜日の午前中、みんなの集合時間よりも少し遅れてきたのはAちゃんだった。伊沢さんがちょうど玄関よりにいたので1番初めに声をかけたのだが、なにやらAちゃんの顔色が優れないらしい。
挨拶の声を聞いて駆けつけたこうちゃんと川上さんは慌てて体温計を持ってきた。
最近インフルエンザが大流行しているからそうじゃなきゃいいんだけどと心配したが、体温計がはかった熱は38を表示していた。
「ただの風邪だよ」
「一旦病院で診てもらうか」
「伊沢さん、インフルじゃないよ」
「最寄りで扱ってるとこある？」
「ここからだと俺が行ってるところが近いかも。でも掛かりつけがいいんじゃないの？」
「でもAちゃん普段行かないから、掛かりつけとかないよ」
「確かにないけど！ こうちゃん！ 山本くん！」
「Aさん、歩ける？」
「川上さん支えなくていいです！」
必死に「インフルエンザじゃない」ことを訴えるAちゃんだが、ここにいる伊沢さんやこうちゃん、川上さんは当然わかっている。もちろん僕もわかってる。Aちゃん、インフルエンザの検査が嫌いなだけだ。
みんなわかってるからこそ怒涛の攻めよう。好きな子をいじめたくなる感覚ってこんなものなのだろうか？
ともかく、インフルエンザでもただの風邪だとしても熱があるなら病院に行かせるのが先！
伊沢さんがそう言ったが「わかってるけど！」と家での完治をはじめようとしている。苦しい思いをするのはAちゃんなのに、本当に検査が嫌なんだなあ。
駄々をこねるAちゃんを帰路まで返す頃、川上さんが僕を呼んだ。用件を聞こうとしたが、顎でAちゃんの方をさすだけでなにも言わなかった。僕はナチュナルに接近し、Aちゃんの手を取った。
少し涙目になった瞳がこちらを見つめた。
「絶対大丈夫だよ」
「山本くん……！」
「ひとりでいける？」
「流石に大人だもん。山本くんの手を借りなくてもいけるよ」
「うん、がんばってね」
気の利いたことは言えただろうか。
川上さんを一瞥するといんじゃないのってぐらいですまし顔をしていたから、多分大丈夫かな。寒そうな背中が消えていくのを見届け、「今日は河村とふくらさんだけか」と伊沢さんが業務的なことを言って撮影を開始した。
その日のうちに、「鼻痛い インフル違う」とAちゃんから連絡が来ていた。よかったなあ。お大事にね。
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