バスケ ページ27
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「動画見てたらやりたくなっちゃった」
片脇に6号のバスケットボールを抱えた彼女、Aちゃんはニコリと笑って答えた。
彼女が「ひさびさに体を動かしたい！」と意気込んで地区センターを予約したりと1人でテキパキやった上に一人でバスケをしようとしたのを慌てて自分も飛び入り参加した今日の15時。僕が、突然どうしたのと聞いて帰ってきた答えが冒頭だ。
実際、僕はスポーツが好きだしそういうことに関心を持ってくれるAちゃんに好意を持つ。が、彼女が唯一できないと言ったら球技だろうか。知識は十分にあるのでルールはもちろん知っているのだが、幼少期は室内で過ごすことが多かったらしい。同じ年代の子供が竹馬や一輪車で遊んでいるにも関わらず、Aちゃんは江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズを熟読していたらしい。(どこの虫眼鏡だって話は置いておいて。)
まあ、不安でついてきたと言ったらもしかしたら帰されてしまうかもしれないので控えておくことにする。そんなことしないのは明白だったが、今日のAちゃんは何か遠くを見ているようでうかつに彼女の名前を呼ぶことを躊躇してしまった。Aちゃん、じゃなくて、今日は水瀬、と呼ぶべきなのだろうか。
誰もいない体育館に裸足で踏み入れるAちゃんを見てその背を追いかけた。本当は履かないと危ないけれど、急に思い立ったのでバスケットシューズまで用意する時間がなかったのだと言い訳でAちゃんは言っていた。冬の体育館のフィールドは凍てつく氷のようだったが、久しぶりの感覚は体の奥底から燃え上がらせるには十分すぎる冷え具合だった。
「手加減してね」
「スポーツマンシップでしょ？」
「そうだけどーお！」
パアン！ と大きな雷のような轟が体育館内に響き渡った。二人きりの体育館。当然のように静まっているその空間にボールが思いっきり跳ねる音が直接的に耳につんざいた。突然のことに驚いた僕は覚悟はしていたもの、一歩退いてしまったことをいいことにAちゃんはじゃんけんのグーを出し始めていた。
何かを遠く見つめるような目。僕にはその意味も、どうして感じたのかもわからない。いつの日かわかる日がくるのだろうか。隠し事もなにも、共有することを自由として付き合ってきた仲にしてはなぜか苛ついてしまったので、知らないAちゃんに憎しみを込めて「水瀬」と呼んだ。水瀬は、ニヤリと笑って、そして再びボールを強くバウンドさせたのだ。
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