牛歩 ページ25
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「Aちゃんと山本さん、本当に何もしないね」
こうちゃんがお気に入りのオレンジジュースをぐいっと勢いよく飲むと、首を思いっきり傾げてそんなことをポツリと言葉にした。隣にいた須貝さんが「わかる〜」と上機嫌に賛同し、また隣にいた僕こと山本はその言葉の意味がよくわからなかった。こうちゃんはそれをすぐに察して文に肉付けをし始める。
「手繋いだりは聞いたことあるけど」
「ちゅーしないの？」
「須貝さん直接すぎ！」
「こう言わないと山本わかんねーんだもん」
ケラケラと笑って冷蔵庫にお茶を取りに腰を上げた須貝さん。僕の顔はたぶんまっかっかだ。めちゃめちゃ熱い。なんて思っていると、「耳まで真っ赤ですね〜」と冷やかすような声がした。河村さんだった。
「ヒューヒューお熱い」
「思ってないでしょ、河村さん」
「なあにを仰いますか。ねえこうちゃん」
「そ、そうですわよ。おほほ」
「どういうキャラ！」
肩頬に手の甲を当ててお姉様のように振る舞うこうちゃんにツッコミを入れると、そうじゃなくて！ と須貝さんが帰ってきた。普通、この中に伊沢さんかふくらさんはいるものだから、人には慣れているとはいえ少しどぎまぎした。いや、話題のせいだろうか。
「で、どうなの？ どこまで？」
「あ〜東海オンエア見ようっ！」
「逃げるな〜！」
「山本、3人もいたら逃げられないからね！」
「嘘じゃあん……何か暴露しないと解放されない〜！」
「本当なんだなあこれがー！」
逃げられないー！
しかし、須貝さんには前に「控えめだなー」って言われたこともあって火がついたのか、最近あった出来事を回想しながら言葉をこぼした。
「一週間前かな。Aちゃんの家行って部屋の片付けしたよ」
「それだけ？」
「年末一緒に過ごしたかな」
「お泊まり？」
「終電ないしね」
「おっ？」
「でも、Aちゃん年明ける前に寝ちゃったから何もしてないよ？」
「期待させよって！！」
「なーんでこんなもどかしいの！？」
こうちゃんと須貝さんがガヤガヤする中、河村さんが神妙な面持ちで何かを考えているのでなぜか寒気がした。見ていることに気づいた河村さんはニヤリと笑って眼鏡をクイッと上げると、意味深に応えた。
「片付けですか」
「……気づいてないんで内緒で」
「はーい。本当にゆっくりだね」
「自覚しています……」
「今度はAちゃんの唇でも奪ってやれば」
「もう！！ 河村さん！！！」
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