川上さん ページ22
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「おはようございます」
「川上さん！ おはようございます」
「……Aさん、ちょっとここ気になるんだけど」
「ん？ どこ？」
束の1番上の紙の文字列の中から蛍光ペンを引いた目立つところを指差す川上さん。Aちゃんはそこを覗き込むように見て、自然と顔が近くなる。ルーズリーフを用意して別の紙に解説を書いたり、何かと話し合ってるのを僕はぼーっとしながら見ていると、ふと、川上さんと目が合った。その目はすぐにそらされたが、何を思ったのかわからなかった。
昔の話だが、川上さんはAちゃんが好きだったらしい。
どういった経由で2人が知り合っていたのか知らないが、「俺、Aさんのこと好きかもしれん」とQKのライターになり始めた頃に言われたことがある。当時はすでに付き合っていることを公表していたため、川上さんも勇気が必要だっただろうし、なにより僕に言ったってことが辛くて仕方なかったと思う。想像しただけで恐ろしかった。
でも、最後に川上さんは言った。
「たぶん、諦められない。
Aさんの性格上、浮気とか駆け落ちとかせんとは思う。俺も2人の幸せが1番だから、略奪しようと思わない。けど、Aさん泣かせようとかそんなことあったら、容赦なくいかせてもらう」
「……ごめん」
「なんで山本が謝るの。俺の方も突然こんな話してごめん」
「川上さんがそんなにもAちゃんのこと好きでいてくれるのに、僕は何もしてあげられない」
「……なんや、それ。そんなん……俺が悪者みたいやん」
困ったように笑う川上さんは何もないオフィスの中なのにとても絵になった。だからこそ、僕はフォローする言葉が出なかった。完璧だった。彼女のことを思う言葉選びが、完璧すぎて、何も言い出せなかった。そのまま川上さんはパソコンと向き合って記事を書き始めた。何食わぬ顔をして、パソコンなんかいじりながら。
川上さんは、不器用な人なんだと思う。秀才の才能を持つ川上さんも、そんな面があるんだとあの日は思った。
そして、今までと変わりなくAちゃんと過ごしているその姿も、たまに僕を見て勝ち誇ったようににやりとするのも、きっと自然なんだろう。川上さんは見せつけてるわけじゃなくて、本当にAちゃんのことが好きなんだろう。嫌気もささないし、むしろ応援したかった。
したかったけど、僕はAちゃんの彼氏だ。
Aちゃんが好きだ。
その気持ちは揺らぐことはなかった。
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