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「水瀬さん」
「ちょうどよかった。今日はありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました！ ちょうどよかったとは？」
僕が問うと、水上さんはいつもと変わらない表情で、でも嬉しそうに目を細めて煽るように言った。
「この子、足が竦むらしくて、ねえ？」
「怖くないし！ なんでまた負けたのかな！」
「勝ちにいきましたよ。僕だって」
「わかってるよ！ ……その澄まし顔むかつく」
「ふ、水瀬さんの強気な態度も嫌いじゃないですけど、弱者の吠えにしか思えないです」
「……うるさいっ！」
と、捨て台詞を吐いて他のメンバーのところへ帰っていく水瀬さん。残された僕はすぐに追いかけようとしたが水上さんを置いていくにも申し訳なくなる。後ろを振り返ると、水上さんがさっきとは打って変わり幸せそうに笑った。
「どうも。水瀬の永遠のライバルです」
「ん？」
「あんな子持って大変でしょ」
「超優秀な子だからなあ」
「『這いつくばってきたお姫様』だからね。たくさん甘やかして優しくしてあげてね」
「這いつくばって？ どういう」
「高校かなんかの時成績ビリだったんだよ」
「……まじですか」
「まじ。でも、強い子だから」
「今日はやけに気がぶれてますね」
「僕と会ったからかな。だいぶ前に知り合ったとき煽ったんですよ。そしたら乗り気になっちゃってさあ。大学生クイズプレイヤーのお遊びだと思ってよ」
なんだか追い詰められた気持ちになった。水上さんの方を見ると、笑ってる。あの子に見せない笑顔で笑ってる。それを知ってしまったこと申し訳なく感じながら僕は退散しようとすると、別れの挨拶に一言だけ余計なものをもらった。
「面識あるんだ」
「僕も初めて聞いた時はびっくりしちゃったよね。QKに入る相談の時、ほんと心配で……って言われてさ」
「で？ 余計な一言って？」
「それ聞きます？」
「いや聞くでしょ！」
「……これ、未だにAちゃんに言ってないのでくれぐれも秘密でお願いします」
「あ、そうだ。山本さん」
「はい？」
「Aさんのこと、よろしくお願いしますね」
「え？」
「わかりやすいんですよ」
──そう言って、水上さんが面白そうに笑っていたのが脳裏に焼き付いている。それは、呪いのように。
幸せそうに笑うAちゃん。この子の幸せは水上さんも望んでいたものなのかもしれない。と、ふとしたとき、なんとなく思ったりするのだ。
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