あたたかい ページ15
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Aちゃんは、月に1日程度、全く口をきかない日がある。
当の本人はその期間が過ぎればいつものように笑っているので気にしている様子はないんだと思う。けれど、僕の方が気になってしまう。彼女の心情なので僕に変えようはないし、僕は彼女から秘密を聞き出そうなんて思わない。自分のタイミングで何事も為して伝えてくれれば、いいよねってことで。
何かを悩んでいるわけではない。ただ、無性に山本くんと口が聞きたくない時がある。
河村さんにはこう話しているみたいだが、僕もAちゃん自身も、本当のところは謎である。昔の話だが、幼稚園に通い始めた子供時代からそういう傾向はあるらしい。と、本人がお母様からもらってきた話をした。……なら、僕が気にする必要はない。
んだけど。気になってしまう。
ご飯は2人分作ってくれるし、お風呂も自分のためじゃないのに掃除して沸かしてる時があるし、何かと僕に構いたくないわけではないらしい。ただ、話したくないだけ。こんなことで悩んでいる僕がばかみたいに、当たり前のようにクッションを潰しながらTVを見ているAちゃんの頬を潰してみせた。
「なにさ」
「今日、あの日かと」
「違いまーす眠いだけでーす」
「でも、なんか不貞腐れてない？」
「ちーーがーーうーー」
「何かあったでしょ？」
「なーい」
「……えー？」
と、そっと腕を引き寄せて胸におさめさせる。トントンと子供をあやすように背中をリズムよく優しく叩くと、もぞっと顔を伏せるように動いたAちゃんが口を開いた。
「なんか、今日大学行ったけど上手くいかなかった」
「うん」
「何が上手くいかなかったかって具体的に言えないけど、気分的に」
「うんうん」
「でもねえ、わたしの何が悪かったのかわかんないの……」
「そっか……。今日は大変だったね、お疲れ様。
でもね、考えすぎなんだよ、Aちゃん。
僕もいるんだし、思い込みばっかじゃ辛いだけだから、ね？」
「ううん……うー」
僕だから、わかること。
きっとそれが、Aちゃんと僕の関係。
だから、当たり前のようにいて、付き合ってるんだと思う。
今日はその日じゃないみたい。でも、Aちゃんだけで考えてばっかじゃ大変なだけだもん。たまには僕にもお話してよ。楽しいことも、悲しいことも、共有すれば2倍にも半減にもなるんだからね！ なんて、それっぽいことを言って、Aちゃんの温もりに身を委ねるのでした。
……安心するなあ。
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