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「耳が痛くなるから外しなさい」
「え！ でも付けてないと……」
「ハロウィンの仮装、黒猫じゃ追い払えないよ。
…………おばけ」
即座にカチューシャを外すAちゃん。
よし、と息を吐くと、今まで黙っていたふくらさんがはははっと笑っていた。
こうちゃんと川上さんは不思議な顔をしていたが、頭の良いお二人なのでよくわかったかのように、そして、途端にニヤニヤし始める。
ハロウィーンの日は簡単に言えば、昔、年の終わりだと考えられており、死者や生きている人間から魂を奪うためと言われている魔物なんかもきていたので、人間は仮装をしてその中に紛れようとしたのだ。……つまり、仮装は自分を守るため。
単刀直入に言うと、Aちゃんは幽霊なんかは苦手ではないが存在や説を信じているので何かとしたがる。例えば、クリスマスには靴下を用意している。存在を見たことがないためお試しでやっている感覚なのだが、本人は楽しんでいるので良しとする。あと、靴下を用意しているAちゃんがかわいくて写真を撮ってしまって。あの、かわいいんです。
「Aちゃんおばけ信じてるの？」
「それともハロウィンのオリジナル話？」
「どっちも。黒猫は魔女のお供してたから仲間かなって……」
「Aちゃん女子だから」
「JKならわかるけど大学生だしなあ」
猫耳をいじいじするAちゃん。あー。結局写真撮ってないや。
帰って猫耳つけたAちゃんに焦っちゃって、外してなんて言っちゃった。あーー。
あー……。
「Aちゃん、もう一回つけて？」
「いいよ」
すると、伊沢さんは、「写真撮ってあげるよ！」とカメラの用意をする。ノリノリのAちゃんに息をこらえるのに必死な僕。僕もかっこいいドラキュラーなんかの格好をしたら褒められたかな。なんて、僕はもうちょっと背を伸ばしたかった。
「はい、ちーず」
かわいい笑顔を浮かべるAちゃんとガチガチになる僕の写真。
あれ、白々しいなあ。ふくらさんがそうやって揶揄すると、Aちゃんが、「でも、山本くんがいいからいいの」と思ったことをそのまま言う。
もう、そういうところが好きなんだって。
言えないけど。
ハロウィーンぽくはなかったけれど、ちょっとはこういうのもありかな、なんて思う。写真は後でSNS用のも撮ってあげることにします。猫耳は、……かわいいからおばけ寄っちゃう。追い払えないよね……。黒猫だからって建前。素直になれないなあ。
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