雨 ページ2
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「こんにちはー、山本くん」
「Aちゃん。お疲れ様」
雨に濡れた髪の先からポタポタと雫を垂らしながら、Aちゃんはペタペタとオフィスの中に入ってくる。今日はひどい雨だった。にへりと苦笑いを浮かべながら洗面所へ向かうAちゃんの後ろ姿を、僕と伊沢さんとふくらさんは見ていた。
「傘、持って行ってないの？」
「朝言ったから持ってるはずなんだけど？」
「Aちゃん、小雨だから自転車かっ飛ばすって連絡きてました」
「あほだろ」
外は小雨とは言えない、大粒の雨がさらさらと降っているような感じ。
だから、傘をささなかったら普通にびしょ濡れになるし、ベタベタする。
わかってるみたいに、伊沢さんとふくらさんの視線が刺さる。
既にふわふわのタオルは握っているし、Aちゃんの元へ行こうとしていたからいいけれど。自由奔放な彼女だと知っているし連絡が来た時はびっくりしたけれど、Aちゃんぽいと思って許してしまった。風邪引かなければいいんだけれどなあ。
僕は洗面所にいるAちゃんの元へ行くべく、水の足跡を辿って引き戸を開けた。
「Aちゃん〜？」
「あ、山本くんだあ」
「そんな格好じゃ寒いよ」
Aちゃんの衣服は薄い半袖シャツに半ズボンだ。
本当に寒そう。僕がAちゃんの方に触れると、ぶるりとする彼女の体からひんやりした温度を感じる。温もりが少しも感じることができない。僕のじんわりと暖かかった体温がどんどんと奪われていった。
「とりあえず、髪の毛拭こう。
今お風呂入ったら湯冷めしちゃうかな」
「う〜〜、頭揺れる」
「自分でやる？」
「山本くんのが気持ちいいから、やって」
猫みたいに頭を僕の胸に擦り付けるAちゃん。
「ちょっと、濡れるよ」と頭を退けるが、内心はドキドキが止まらなかった。
僕の彼女は、突然デレる。
かわいくて仕方ないんだけれど、心臓に悪い。
顔が熱い。Aちゃんが伏せててくれてるから良かったけれど、もし見られてたらからかわれていたんだろうなあと思う。Aちゃんは、そういう人だ。
ドライヤーも使って髪がさらさらになってきた頃、
二の腕から見える白い肌が寒そうで衝動的に立ち上がった。
「パーカー取ってくるね」
「行っちゃうの……？」
首を傾げて手を振るAちゃん。もう、本当に心臓に悪いよ。
……僕の茶のパーカーを着せたらぶかぶかの萌え袖で、
……なんかもう、どうしようもなくかわいかった。
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