灰色に染まる。 (ページ8)

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あたりまえやけど、その日はマルに食べられることなく、俺も食べることなく朝を迎えた。

起きると隣に、というか家にマルはおらんくて。

『研修会行ってきます』

て特徴的な文字の置手紙。

…明日休みって嘘やったん？

フワっと味噌汁の匂いが鼻をかすめた。

小さな鍋を開けてみると一人分の粕汁が入ってた。

…まだお鍋は温かくて。

「うまっ」

もう少し早く起きてたら会えたんかな。

炊飯器にも一人分のご飯が残ってたけど食欲がわかんくて、粕汁だけ頂いた。

カチャカチャと片付けてテーブルに置かれた鍵に視線を滑らせる。

同棲してるみたいやな、なんてな。

「お邪魔しましたー」

二重ロックかけて鍵はポストに入れておく。

丸『ごめん、まだ家におる？』

そんなＬＩＮＥに気づいたんはマルの家から数メートル離れた所やった。

『忘れ物？』

丸『研修会の資料忘れた！タンスの一番下の引き出しにあんねんけど』

『届けるで、暇やし。どこ行けばエエの？』

丸『一本だけ電車遅らせるから、駅に来てほしい』

了解、ってスタンプ送ると「今度飯奢る」って。

小さくガッツポーズ。

…この喜びは何やろう。

食べ物に釣られただけ？またマルに会えるって確信？

あかん。

マルを好きになったら辛くなるんは俺やもん。

辛くなってもエエからこの人を好きになりたい、なんて思うのは危険すぎる。

「…え」

タンスには確かに、資料があった。

それを丁寧に鞄にしまってから気付いた写真。

奥底に隠されるようにしまわれてた、きちんとフィルムで保護されてる写真。

『俺の好きな人』

裏にはハッキリとボールペンでそう書かれてた。

一気に緊張で鼓動が早くなる。

手は少し震えてきてるけど、見たい。

あの頃のマルが好きやったんは誰なのか。

ｐｒｒｒｒ！

いきなり鳴ったスマホに肩が跳ねた。

丸「大倉、早く！あと５分で来てまうから！！」

言いたい事だけ言って切られたスマホをポケットに入れて、写真を元に戻した。

このタイミングで電話かかってきたってことは見るなって神様が言ってるんやろう。

…なんて、俺に見る勇気が知る勇気が無いだけなんやろうな。

安『説明会の時から気になってた』

こんな時にヤスが頭に浮かぶ俺おかしい。

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