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羽生さんによって倒れた和也に、ウチさんがカメラに向かって親指を立てた。
「山守さん、羽生さんって一体何者なんですか?」
私たちの後ろにいた西城くんがそう思うのも無理ないだろう。本人の立居振る舞いを見ていたらきっとそう思う。
山守さんが一度私に視線を送った。
「…羽生は、誰でもない。誰でもないし、何者にもなれない男」
私は、羽生さんの過去を知っている。なんなら、出会ったきっかけはその過去のころの話だ。
曖昧な言い方しかしない山守さんに、西城くんは返事も出来ずに押し黙るだけだった。
そのまましばらく待つと、場所を移した羽生さんたちが和也の身柄を拘束して、証拠となり得る発言を拾うために話し始めた。会話の内容、その様子はカメラ越しに私たちを見守っている。
反抗的な態度を取っていた和也も、羽生さんの言葉やリナが取り出した本物の銃の存在によって、さすがに態度を変えるしかなかったようだった。
『か…風間はまだ死んでない!』
「牧原、あとよろしくね。Aも、そろそろ潮時よ」
「了解」
「わかりました。もうすぐ帰ります」
聞き出したかった言葉を聞いて、山守さんは部屋を出ていく。そろそろ私はお暇した方がよさそうだ。私の立場上、関係者に顔が割れるようなことは慎まないといけない。
上着を羽織って出る準備をしていると、西城くんが驚いたように私のことを見てきた。
「本当に帰るんですか」
「帰るよ。だってもう遅いし、お腹も空いたし。あ、マッキー、『あれ』始めるとき連絡くれる?」
「了解。気をつけてね。Aに何かあったら羽生ちゃん絶対怒るよ」
「迎え呼ぶからだいじょーぶ」
「え?」
「じゃあねー」
携帯で迎えに来て欲しい旨の連絡を入れてから、私はひらひらと手を振るとマッキーがにこにこ笑いがながら返してくれた。
事務所から出て近くの交差点まで出ると、見慣れた車が来ていた。私はその後部座席に入る。運転席にいるのは、私の付き人をしてくれている鞘野だ。
「今日はどちらの家に?」
「お父さんどうするんだっけ」
「今日はお帰りになるご予定はありません」
「じゃあ実家」
「かしこまりました。明日は一樹様とのお約束の日ですので、17時には家にいるようにお願いします」
「……はーい」
流れていく景色を眺める私の顔が窓ガラスに映っている。アバランチのメンバーのために用意したものと同じマスクをつけているみたいに、表情はすっかり消えていた。
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みずたま(プロフ) - 竜胆さん» コメントありがとうございます!どう転ぶかはわからないですが、私もくっついたらいいなーとは思ってます。引き続きよろしくお願いします! (2021年11月25日 8時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆 - みずたまさん» 初コメ失礼します!とても、良い話で…一気読みしてしまいましたww 立場的に無理なんだろうと思いながらも、ヒロインと羽生さんがふっついて欲しいと願う程のお話で!毎回、楽しませて貰ってます!ww (2021年11月24日 22時) (レス) @page46 id: 0323b34345 (このIDを非表示/違反報告)
みずたま(プロフ) - さっくんさん» ありがとうございます!続き更新しましたー!よろしくお願いします! (2021年11月24日 21時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
さっくん - やー!♡続き気になるぅー!!!!!!!!!! (2021年11月23日 22時) (レス) id: 7aaa679c24 (このIDを非表示/違反報告)
みずたま(プロフ) - カンさん» はじめまして!ご指摘ありがとうございます。マルヒとマルガイ、完全に逆にして覚えてました…!修正しておきます。ありがとうございます! (2021年11月20日 23時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みずたま | 作成日時:2021年10月27日 1時