border line #1【羽生誠一】

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「A」
「ん……あれ、寝てた？」
「寝てた。山守さん来たぞ。ほら資料」


ソファの肘置きにもたれるようにしてうたた寝をしていたらしい。羽生さんに起こされて座る体勢へと戻した私は、自分の身体からずるりと上着が落ちていくことに気づく。黒い大きな上着は羽生さんが着ているものだ。
羽生さんは私のすぐ隣に腰を下ろす。


「上着、ありがとう」
「昨日寝てないんだろ」
「わかった？父の付き合いで色々あって」
「目の下にクマ。今日は無理すんなよ」


羽生さんがテーブルの上を顎で指す。そこには知らないうちにコーヒーが置いてあった。私のために淹れてくれたんだろう。至れり尽くせりだ。


貰った資料に載っているのは夏川洋子。IMAAの東南アジア担当の責任者で、国の評価も高い。けれど、半年前にビルから転落して死亡してしまった。


「えっ、でもなんで調べるんですか？彼女は自分で」
「まだ途中だろ」
「えっ？」
「太陽の絵」


夏川洋子のSNSにはまだ未完成の絵が載せられている。そのコメント欄には『日本から戻ったら完成させようね』。


「こういう約束をした人が自ら死ぬとは思えんな」
「これを見て。彼女が亡くなる5日前の監視カメラ映像」
「夏川洋子と誰？」
「黒田外務副大臣！」
「おかしいなー、1度もお会いできなかったって言ってたのに」


黒田外務副大臣は嘘をついている。嘘をつく必要があったということだ。
映像を確認した羽生さんが私の元へ戻ってきて、私の膝の上にあった上着を指さした。手渡すと、さらりとそれを羽織る。


2人が言い争っているところを見ていた職員はそれを警察に伝えて地方へ飛ばされた。その報告書すら、最近紛失した。


「黒田外務副大臣が彼女の死に関わっている可能性がある」


それが今回、山守さんが持ってきたご依頼だ。



***

※エラー回避のため一部本編の台詞を改変しています

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