side: S.Habu ページ13
Aの名義で家族にも相談せずに勝手に借りたらしい部屋は、最低限の家具しか置かれていない小さなワンルームだった。
仮にもお嬢様として持て囃されてきたはずの彼女の住処がこれでいいのかと思わないでもないけれど、彼女が好きなルームフレグランスが優しく香るこの部屋は落ち着く。
「ん……」
未だ夢の中にいるAを起こさないよう、身体を起こした。
布団の外に放り出された、何も纏っていない腕にはいくつかの痣が残っている。それがAと許嫁との間で行為が行われるたび、増えていくことは知っていた。
ろくでもない行為なんだろうことは想像に容易くて、それに対して何も言わないAが不憫で、俺は彼女の頬を撫でる。
今はこうして甘やかしてやれるけど、そうしてられるのも時間の問題だ。いずれAは、その男のものになってしまう。
幸せになれないことを、すでにわかっているというのに。
だったら俺のものになれよ、とは言えなかった。
由緒正しい家に生まれてきたAと、年齢も仕事も家柄も釣り合うような男ではない。
それに、俺にはアバランチを通して、やらなきゃいけないことがある。
そのためにはAを遠ざけなければいけないこともあるかもしれない。
俺が出来ることといえば、Aが求めてくれている限りはそれに答えてやること。ただそれだけだ。
「っ、はぶさん…?」
「ん?起きたかA」
「…まだねむい」
「いいよいいよ、まだ寝てろ」
もぞりと布団の中で身体が動いて、すでに起こしている俺の腰の部分に細い腕が回る。そこに力を込めて身を寄せてくるのだから、可愛いやつだ。
布団越しに身体を優しく叩いてやると、再び眠りにつきそうな安らかな呼吸音が聞こえてくる。
「……ごめんね」
小さくくぐもった声はAのもの。
「それ、俺の台詞だわ」
自然と出てきたその言葉が、Aに届いたのかはわからない。
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みずたま(プロフ) - 竜胆さん» コメントありがとうございます!どう転ぶかはわからないですが、私もくっついたらいいなーとは思ってます。引き続きよろしくお願いします! (2021年11月25日 8時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆 - みずたまさん» 初コメ失礼します!とても、良い話で…一気読みしてしまいましたww 立場的に無理なんだろうと思いながらも、ヒロインと羽生さんがふっついて欲しいと願う程のお話で!毎回、楽しませて貰ってます!ww (2021年11月24日 22時) (レス) @page46 id: 0323b34345 (このIDを非表示/違反報告)
みずたま(プロフ) - さっくんさん» ありがとうございます!続き更新しましたー!よろしくお願いします! (2021年11月24日 21時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
さっくん - やー!♡続き気になるぅー!!!!!!!!!! (2021年11月23日 22時) (レス) id: 7aaa679c24 (このIDを非表示/違反報告)
みずたま(プロフ) - カンさん» はじめまして!ご指摘ありがとうございます。マルヒとマルガイ、完全に逆にして覚えてました…!修正しておきます。ありがとうございます! (2021年11月20日 23時) (レス) id: f07c1a6963 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みずたま | 作成日時:2021年10月27日 1時