第2話 上り坂・落とし穴 ページ7
そんなこんなで働くようになって半月。だいたいここの店のこともわかるようになってきた。
「なぁ照史くん、昨日のピザトーストまた作って♡」
えへへ、言うて語尾に♡つけたような喋り方を無意識にするあそこの天然が、一応ここのオーナー藤井流星。ちなみに弱冠二十歳。めちゃくちゃ二枚目。
勉強とかあんまりせぇへんかったから〜とへらへら言うあいつはやっぱり成績もそんなに良くなかったらしく、高校は私立の食物科(なんてとこがあるん普通科しか受けてへん俺は全く知らんかったけど)しか受からんかったらしい。でもそこでると調理師免許がとれるらしくて、なんやかんやそこを卒業したおかげでここのオーナーやれてるとかいうたなぼた人生の持ち主。店も親戚のじいちゃんがやっとった喫茶店を歳で閉めるいうから引き継いだとか…完璧なコネってやつやな。なんや、顔がいいとやっぱ人生イージーモードなん?とか僻みたくもなるけど、アホやし天然やけど単純にめっちゃええやつで、人望とかの話されてもうたら俺あかんねんけど…とはいえカフェタイムの女性客はこいつの顔で集客してるようなもんやからやっぱ顔やって大事なんやな、とか言ってみる。
「あ〜あれは昨日しげが食パン間違って切りすぎたから作った特別メニューです〜今日は作りませ〜ん」
チーズは単価高いんやぞ!とオーナーを一蹴するあの人がここのコックの照史くん。シェフって呼べ!ってうるさいけど、どっちかっていうとコックさんのが似合う風体の24歳。この人もやっぱり調理の専門卒で、一度就職したけど自分の店が諦めきれずにこの歳にして脱サラしたらしい夢追い人や。あんなぽんこつの流星がオーナーやれてるんは完全に照史くんのおかげで、店のことの大半を任されてるらしい。大変やないんすかって聞いたら「ええねんええねん、自分の店持ったらこんなんもせんとあかんねんから。練習や」って笑っとった。懐がでかい。懐もでかけりゃ身体もでかいけどな。ちなみに照史くんの料理はマジでうまい。夜飯の時間帯にサラリーマンを集めてんのは照史くんのどっか懐かし〜い感じの味やと思う。
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作者名:ぐりむ | 作成日時:2017年5月14日 9時