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あわただしくバックヤードを出て行く二枚目を呆然と見送り、俺はすぐ出せるようにと手に持っていた履歴書のファイルをどうしたもんかわからんくなってローテーブルに投げ出した。透明な天板の下にタイルの模様。なんや、店の奥までどんなけこだわってんねん。

3年からキャンパスが変わるんでここに引っ越してきて3ヶ月。そろそろ夏休みやしいい加減バイト探さんとなって思いつつもネットで検索とかめんどくさいし、アクセス良くて時給ほどほどやったらどこでもええわと思ってたら見かけたここのバイト募集。手書きポスターのテキトーな文言はあんまし覚えてないけど、週3日以上、時給1000円、そこだけ見てパシャっと写メを一発。帰って速攻電話して、それが一昨日。

家から近いし、雇ってもらえると楽なんやけどな〜。

前やってたコンビニのバイトは控えめに言ってもブラックで、キャンパス変わらんかったら絶対やめさせてもらえへんかった、と、思うとマジで怖いねんけど。せやからコンビニバイトはもうせぇへん。となると駅から家までの間にあるんはここぐらいになるんよな〜居酒屋もキツいって聞くからあんましたくないし。

「ほい!」

なんてこと考えとったら斜め上から降ってくる太い声。反射的に顔を上げると、目の前に甘い香りの立ち上るホットケーキがどでーんと置かれていた。

「ほぁ?なに…」

「いまこんなんしか出せなくてごめんなぁ、カフェメニューはほとんど甘いもんしかでぇへんねん」

サンドイッチとかもあんねんけどな〜、そうぼやいたのは黒くて大きいからだに、カジュアルな白シャツの上にオレンジのエプロンで。店長とおぼしきその人は見事なまでの困り眉。

「いえいえ!あ、なんか、逆に気ィ遣わせてしまったようでごめんなさい」

「いやいや気にせんといてな?流星が変な時間に呼び出したんがあかんねんあんのあほうめ」

「どうせ休みやったんで大丈夫です」

「ほなら余計あかんや〜ん、せっかくのお休みなんに…とりあえず時間つぶしにでもこれ食べといてな?コーヒー飲める?お砂糖とミルクもあるから使って、ほんでそこの雑誌とか適当にみといてええからな」

またまた嵐のように去っていくのをみて、ポスターに書かれた〈急暮!〉の文字の意味をなんとなく実感した。思いっきり漢字間違えててんな、現行のバイト使えなさそうやし。
そんなことを思いながら、甘いもんなんか普段はそんな食べんけどせっかくだしてもらったもんやから、と真っ白い皿に向き合う。

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作者名:ぐりむ | 作成日時:2017年5月14日 9時

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