契約済み。

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あたしの放ったこぶしは見事に登坂さんの左頬を捉えてヒットした。



左頬を押さえた登坂さんは、あぐらの体制から片足を立たせた姿勢で、下を向いている。



だから、あたしに殴られた登坂さんが今、どういう表情をしているかわからない。


パンチという形で放たれたあたしの怒りは、今度は静かにあたしの手を震わせた。




….あたしのこの世界への覚悟は甘いものだったのかもしれないけど、



登坂さんのその提案は、



歌へのあたしの思い入れまでも踏みにじられた気がしてならなかった。



…そんな…安っぽいものじゃない…！！



「…ばかにすんなっ…」



そんな捨て台詞を吐き捨てると、あたしはイスに立てかけてあった自分の鞄の取っ手を乱暴に掴んで、玄関へ駆け出した。


そのまま勢いよくドアを開けると、



健「うおっ」


今頃帰ってきたお兄ちゃんと鉢合わせになる。


最悪…


遅いよ…



健「A…？どし「どいてっ！！」



何かを察したお兄ちゃんは、静かに道を開ける。



そのままあたしはズカズカとマンションの廊下を突き進んで、エントランスまで降りると、




そのまま一目散に駆け出した。




鼻の奥がツンとして、視界がどんどん歪んでいく。



でも、両目から溢れたそれを拭う余裕も、今はなかった。


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