夢ならば。 ページ5
全員、私の、悟さんの未来の正妻という立場上、無理矢理力尽くで抑えることはできない。
どんっ、と突き放せば、いとも容易く体は解放された。
お父さん、お母さん、どこ、どこなの。返事をして。
「お父さん！お母さん！どこ…」
どこなの？と言いかけた瞬間、視界が真っ赤に染まった。
「…お、お父さん？お母さん？なに、何やってるの。なにやってるのよ。…立って、立ってよ。」
知らぬ間に、涙が次から次へと溢れてくる。
目の前には、うつ伏せに倒れた父と母。
父の手は、母を守るように母の頭に添えられている。大好きな、父の手。温かくて、優しいはずの、父の手。
その父の手も、真っ赤だった。
「お父さん、お母さん、おきて、ねぇ、起きてよ。」
必死に父の手を握りしめる。
涙で前がよく見えない。
それでもなんとか術式を構築しようとするけれど、なぜか術式が全く効かない。
「なんで？！…ねぇ、ねぇってば！！お母さん！」
「……A…」
「お母さん！！」
かすかに私を呼ぶ声が聞こえた。
母の声を聞き漏らすまいと、懸命に耳を傾ける。
「…A、ごめ、んね…」
「お母さん、お母さん！！」
「……A、生き、て。生き抜い、て。いいわね？」
うん、うん、と溢れる涙を流したまま、何度も頷く。
母の手がそっと伸びてきて、大粒の雫を拭い去っていく。
母のその柔らかな手を、父の手と共にきゅっと握りしめる。
「いい子。…ありがとう。」
母が喋ったのは、それきりだった。
大粒の涙が、とめどなく流れていく。
雫はぽたぽたと母の顔をつたった。
「うう、ふぐ、う、」
私は、真っ赤な水溜りの中で、父と母を掻き抱きながら、泣き叫んだ。
涙が次々と溢れ出てきて、地面に水たまりをつくろうとする。
「お母さん、お父さん、ふ、うう、」
何回、父と母を呼んだのか分からない。
2時間ほどその場で泣き続けた。
声がからからになって、引き攣るようなものに変わったとき、ふっと意識がなくなっていく感覚を覚えた。
自分の体がどさりという音を立てて、もう息をしていない父と母の体のうえに倒れ込む。
「A様！誰か、A様を…！」
「おい、誰か車を持って来い！」
「A様！しっかりしてください！！」
誰か、誰か、嘘だと言って。
お父さん、お母さん…
瞼がゆっくりと閉じていくのが分かる。
ぼやけていく視界の中に見たのは、赤とは対照的な、綺麗な白色だった。
くらい！！！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 385人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜 - まさか…… (2022年8月1日 23時) (
レス) @page33 id: eaa9446555 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 甘味!さん» 甘味!さん、いつもコメントありがとうございます。実はですね、あの人夏油さんじゃないんですよ…一個下の黒髪のあの人です。ななみんと同期の…更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします！ (2021年7月8日 19時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - プスメラウィッチさん» ごじょるオチです。ごじょるにしかおちません。 (2021年7月8日 1時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
甘味! - はい！夏油さんだと思いたいですっ（更新楽しみにしてます！ (2021年7月7日 20時) (レス) id: f8e0e8f1cf (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか？できれば五条悟オチでお願い出来ますか？続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年7月1日 4時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪 | 作成日時：2021年6月20日 0時
