ずるい。 ページ23
「…あの子が」
あまり高専に詳しくない私でも、天元様の存在は知っている。
あの子は同化したらもう二度と家族と会えなくなるんだと考えると、とても複雑な気持ちになる。
「傑さん、それで呪霊は取り込めそうですか?」
「うん。取り込めそうだよ。今は何故か呪霊の能力が中途半端に欠けているけど。」
「あっ、それは多分味見で私がちょっと食べたからだと思います。」
「じゃあ…」
「問題なさそうですね。」
「ありがとう。じゃあ私はそろそろ行くよ。ちょっと先生に呼び出されているものでね。Aちゃん、今日は本当にありがとう。」
「いえいえ。この紙袋に残りのカレーが入ってるので。今度、レシピ持ってきますね。」
「何から何までありがとう。」
傑さんに紙袋を手渡す。
教室に残ったのは硝子ちゃんと私だけだ。
「飲み物を買いたいのだけど…自動販売機ってある?」
「すぐそこの角にあるよ。一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫よ。ありがとう。硝子ちゃんは何飲む?」
「何もいらないよ。ありがとう。」
かばんは教室に置き、お財布だけを持って教室をでる。
少し歩くと、赤い自動販売機が見えた。
こんなところに、と思いつつ、足を動かし続ける。
開いている窓から、突然叫び声が聞こえた。
「はなせー!」
「うっせぇよ!」
窓から見えたのは、悟さんと理子ちゃんだった。
2人は楽しそうに話している。
何を言っているのかは聞こえないけれど、2人とも楽しそうなのはすぐに分かった。
悟さん。
心の中で名前を呼んだ瞬間、悟さんが少し頬を染めて、ふっと笑った。
あまりの切なさに息が止まる。
私には、見せない笑顔。
見たことがない笑顔。
「さとる、さん」
今まで一度も、あんな嬉しそうな笑顔は見たことがない。
頬を染めて、照れくさそうに笑う顔。
誰かを想っているような、そんな笑顔。
悟さんの視線は、目の前の少女に注がれている。
笑ったのはほんの一瞬だったけれど、すぐ分かった。
悟さんの心には、私じゃない子がいる。
悟さんの心に私がいないことはとっくに知っている。
だけど、その心には誰もいないと思っていた。
その誰もいなかった心を手に入れた彼女。
「ずるい…」
私が10年かかってももらえなかったもの。
それを、彼女はどれくらいで手に入れたのだろうか。
ずるい。ずるい。ずるいけど、でも。
私じゃ無理なんて、最初から分かってた。
分かってたけど。
それでも好き。
どうしようもないくらいに好きな人。
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桜 - まさか…… (2022年8月1日 23時) (レス) @page33 id: eaa9446555 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 甘味!さん» 甘味!さん、いつもコメントありがとうございます。実はですね、あの人夏油さんじゃないんですよ…一個下の黒髪のあの人です。ななみんと同期の…更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2021年7月8日 19時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - プスメラウィッチさん» ごじょるオチです。ごじょるにしかおちません。 (2021年7月8日 1時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
甘味! - はい!夏油さんだと思いたいですっ(更新楽しみにしてます! (2021年7月7日 20時) (レス) id: f8e0e8f1cf (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年7月1日 4時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪 | 作成日時:2021年6月20日 0時