変わってない。 ページ3
「…」
「悟さん?」
「…なんでもない」
そう言って悟さんはスタスタとどこかへ行ってしまった。
ああ、やっぱり。一年たっても、悟さんの態度は変わらない。
幼い頃は、それなりに仲良くしていたのに。
ふぅ、ともう一度ため息をついて、くるりと体を反転させる。
部屋に戻ろう。
長い長い廊下をぽつぽつと歩く。
自室の障子をからりと開ければ、1年前のまま、何も変わってはいなかった。6年間過ごした後のまま。
ほこりもかぶっていないし、じめじめもしていない。
おそらく女中の皆が、定期的に掃除をしてくれていたのだろう。
変わっていることといえば、窓際に一輪の季節外れの椿が飾られていることと、真ん中に私の荷物が固められているだけ。
椿も、私の好きな花であることを知っている女中さんの誰かが、添えてくれたのだろう。
小さな気遣いに心が温まる。
椿は、悟さんに会えたきっかけの花だから。あの日、椿の花がなければ、悟さんにも会えなかったのかもしれない。
そっと幼い頃の淡い思い出を思い出すだけで、私の心はきゅっと音をたてる。
その思い出が、私だけのものだとしても。彼が覚えていない儚いものだったとして
も。
私にとっては、温かい思い出なの。
椿の花びらをそっと指で撫でていると、部屋の外から声がかかった。
「A様、お帰りになって早々、申し訳ないのですが…」
「どうしたの?」
「当主様より、その…」
「お義父さまが、どうされたの?」
「その、悟様とA様専用の部屋をご用意されたと…」
「…その部屋で、暮らせと言われたの?」
「はい。タワーマンションの、一室で、と…」
「そう…」
五条家現当主である悟さんのお父様は、逸早い悟さんの子供を望んでいる。
五条家は、悟さんの誕生によって、御三家としての栄光をさらに極めた。
悟さんの血をそのまま次の世代に受け継ぎたいであろうことは、容易に想像できる。
だけど。
私の術式は、術式と呼んでもいいのかと思うほどこの五条家に相応しくないものだと自覚している。
もちろん、悟さんの助けにもなれない、弱い術式。
そんな私がなぜ悟さんと婚約できたのか、父は婚約を取り付けることができたのか、不思議でならない。
私は悟さんが好きだったから良かったのだけれど、いつもは私の気持ちを優先させてくれて、大切に育ててくれた父と母が、この婚約だけは私の選択を聞かずに取りつけた。
この理由を知るには、残酷な未来があることを、私はまだ知らない。
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桜 - まさか…… (2022年8月1日 23時) (レス) @page33 id: eaa9446555 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 甘味!さん» 甘味!さん、いつもコメントありがとうございます。実はですね、あの人夏油さんじゃないんですよ…一個下の黒髪のあの人です。ななみんと同期の…更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2021年7月8日 19時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - プスメラウィッチさん» ごじょるオチです。ごじょるにしかおちません。 (2021年7月8日 1時) (レス) id: f9d6daf8b8 (このIDを非表示/違反報告)
甘味! - はい!夏油さんだと思いたいですっ(更新楽しみにしてます! (2021年7月7日 20時) (レス) id: f8e0e8f1cf (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年7月1日 4時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪 | 作成日時:2021年6月20日 0時