姫と王子 ページ5
気が付いた頃には、ボクの演奏は終わっていた。至る所で拍手が起こる。観客の顔は興奮冷めやらぬもので、しかしその熱気は自分に向けられたものではないと知っていた。
物が破裂するような拍手喝采。先程司が演奏を終えた時よりボリュームダウンしたものにひとつも笑顔など浮かべられない。ふらふらと揺れる足をしっかり立たせ、礼。逃げるように踵を返す。
「ヒナ」
「司」
舞台袖に戻れば、司が声を上げる。自信満々のすたーはどこへやら、先ほどと同じような退屈そうな顔。いや。それよりちょっとだけ嬉しそうか。
「凄いじゃないか。少しも音が外れていなかった」
「は？」
何言ってるんだ、こいつ。訝しげな顔をするボクに司はフッと微笑んだ。本来の笑顔、初めて見た。花が綻ぶような笑顔だ。
「ヒナはピアノが好きなんだな。何というか、魂がこもっているのを感じたぞ」
「……」
「ヒナ？」
唇が震える。カッと胸に湧くのは怒りなんだろう。目の前が真っ赤になる。優しい顔で笑うな、嬉しそうにするな。ボクはピアノが好きなんじゃない、ピアノを弾いて褒められるのが好きなだけだった！
「──違う！」
譜面を地面へ叩きつける。司がヒナ！ と咎めるような声をあげて譜面を拾うけれど、ボクはその姿にすら腹が立った。
あんなにも溢れる才を持って、あんなにも楽しそうにピアノを弾いて、あんなにも魂を込めておいて。
どうしてオマエは、自分はピアノが好きじゃない、みたいな顔するんだ！ ここにいる誰よりも、こんなにピアノのことを愛しておいて！！
「ボクは、ピアノなんか好きじゃない！ 二度とそんなこと言うな！」
「ヒナ！ まだ結果発表が残って──！」
「分かりきってるだろ！ オマエが一位じゃなけりゃ誰が一位なんだ！」
そしてボクは駆け出した。たくさん書き込んだ譜面を置いて。
技量だけで言えば、司とボクは互角だろう。当たり前だ。この曲には上限がある。完璧に弾け、と言われればできるくらいの上限が。
けれどその上限を司は超えた。技量以外のものであっさりと超えて行ったのだ。
誰が見ても──誰が聴いても、実力差は圧倒的だった。
「っわ！」
「きゃっ！ ヒナ！？」
「……お母さん？」
走っていると、いつの間にか玄関ホールまで来ていたのかお母さんとぶつかった。綺麗なお洋服が尻餅をついた衝撃で少し汚れたけれど、お母さんは気にせず同じく尻餅をついたボクを助け起こす。
「どうしたの姫名。危ないから走っちゃダメじゃない」
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね！ 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます！ (2022年10月25日 7時) (
レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ，フラ立ってますよ！ (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：文字書きの端くれ | 作成日時：2022年10月25日 0時
