姫と王子 ページ4
コンクール開始のブザーが鳴る。ある人は拙く、ある人はそつなくピアノを弾きこなし、小さな会場はその度にパラパラとした拍手に包まれた。
ボクは舞台袖からそれを見る。
「もうそろそろ司の番じゃない？」
「あぁ……うん」
司はちらりと観客席を見て、なぜか落胆したような顔をしながら譜面を握りしめた。さっきより少し幼くなった口調は本来のものかな。
光に満ちたステージとは違い舞台袖は真っ暗だ。どこか寒い気もするそこでも、司は何も感じていないみたいな顔をしていた。
天馬司くん、とアナウンスが入る。司はそれを聞いて、一瞬俯いて。
ぱちり、ばちり、と。その瞳に光が宿り、意志が宿る。一つも動かなかった口角は釣り上がり自信に満ちた笑顔で立ち上がった。
「──」
「……よし！ スターの名に恥じぬ、最高の演奏を始めるぞ！」
圧倒された。きらきらきらきらと、あまりにも綺麗に胸を張るものだから、その輝きがあまりにも眩しかった。
くすりとも笑わなかったくせに、胸の内から勇気が湧いてくるような、自信満々の笑顔で司は幼い手を二、三度握りしめてはパッと開いて、アナウンスの通りステージへ歩いて行く。
それはそれは堂々たる凱旋だった。
一度観客席へ礼をして、椅子に座り。好きなタイミングで始めていいと言われた演奏のため、スゥ、と一呼吸だけ吸って。
最初の一音はあまりにも完璧で、麗しく、鮮やかに始まった。
名も知らぬ練習曲。指の位置を確認するためだけの、本来はコンクールにすらならない音。それが魂を持ち、質量を持って観客の心を奪う。ボクは呼吸すら煩わしく息を止めて、その演奏に聞き入った。
眠っていた観客が起きる。つまらなさそうにしていた客の退屈が取り払われる。音に物語を感じ、自由に跳ねる指に魅入られる。
完璧だった。完璧な演奏で、何一つとして音を外していなかった。その上で──目の離せないような、ずっと聴き入っていたいような。自信に溢れた輝く笑顔と輝く音。光に満ちたステージが、たった一人の手によって作り上げられる。
──格が違う。技量が、志が違う。
近づく終わりに誰かが残念そうな声を上げる。もっと聴いていたい。もっと見ていたい。叶うのなら、永遠に。
渦巻く熱気と喝采と、かつてないほどの盛り上がり。誰もが、この一人の子供に惹きつけられた。
(勝てない……)
直感した。きっとこれは当たっている。
その日ボクはかつてないほど完璧に演奏が出来たらしい。
記憶には残っていないけど
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね！ 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます！ (2022年10月25日 7時) (
レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ，フラ立ってますよ！ (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：文字書きの端くれ | 作成日時：2022年10月25日 0時
