第四幕 にっこりわんだほい! ページ22
セカイを後にし、自室から出てきたボクを出迎えたのは執事長だった。普段はボクのいる別荘ではなく父母の本邸に居るはずだ。眉根を寄せれば、慇懃に礼をした執事長が父母から呼び出されていると言う旨を伝えてきた。
「父さんと母さんが? 珍しいね」
本邸があるのはこの町ではなく、県を跨いだ先にある。田舎町ではないが都会とも言えないだろう。母さんは少し前から呼吸器に疾患があり、都会にはもう住めないのだから。
「お坊ちゃまに至急、とのお達しで」
「わかってるよ。そうでなきゃ連絡してこない。車出して」
「は……」
母さんの病状が悪化したわけではないだろう。その場合はメールで連絡が来て執事長が迎えに来る。携帯を確認するも形跡はなし。
「ボクも暇じゃないんだよ。ピアノは一日弾かないと腕が鈍る」
「ははは! 坊ちゃまったら、一日一度どころかご友人も作らず弾いてるじゃないですか!」
駐車場に出された車に乗り込み文句を言うと、運転手が豪快に笑う。執事長は手配したのちすぐ出立したようだ。若くないんだからゆっくりしてればいいのに。
小さな頃からいる運転手にため息をつき不機嫌を知らせるも、その程度でへこたれる相手でもない。
「追っかけるのもいいですけどね、感情ってのは人との関わりで生まれてくもんですよ」
「一理あるけど……なに、ボクの人間関係があの天馬司より希薄って言いたいわけ?」
「そうですよ? だってほら、ピアノ教室の子で昔から人と関わっていて、明るくいい子だと近所で評判。それに比べて坊ちゃんはいまだに偏屈で背も小さくてネチネチしていて……」
背が小さいのは関係ないだろ。目の前の座席をどすどす蹴る。父さんの気に入りでもあるし、ボクも幼馴染みたいに育ったこいつを解雇する気はない。ただこいつはそれに救われていることをもう少し自覚すべきだ。
「別に、小さくない。大体もっと小さいのがいるだろ」
「あ、坊ちゃんダメですよ。許嫁に小さいのなんて言っちゃ」
「事実だ」
車の揺れに目を瞑った。どうせ本邸に着くまで暇なのだ。少し寝ていようと微睡む。案外寝不足だったようで、意識はことりと落ちていった。
次起きた時は本邸近くだった。駐車場に目がいって、見覚えのあるリムジンに嫌な予感。
「はーい着きました」
「……おい。ボクを呼んだ理由って……」
「偶には許嫁同士仲良くせよ、だそうですよ」
「はぁ!?」
「姫名くーーんっ!!」
底抜けに明るい声と共に──確かな重量がボクを襲った。
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね! 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます! (2022年10月25日 7時) (レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ,フラ立ってますよ! (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文字書きの端くれ | 作成日時:2022年10月25日 0時