姫と王子 ページ3
「コンクールというのは初めてでな。勝手がわからん。ここは休む場所だと思っていたが……」
「いや、そうだけど！ 本番前だもん。緊張しないの？」
「緊張……？」
普通、コンクールの勝敗なんて最後までわからない。最近はボクが優勝を掻っ攫っているとはいえいつでもこの首は狙いたいはず。初出場ならそれらしく必死で練習してるものかと思うけど？
そんなボクの考えを読んだのかなんなのか、彼は反対の方向に首を傾げた。
「していないな。今朝試しで弾いた分には母さんからも父さんからも文句を言われなかったし、課題曲の難易度も低いからな」
「っ、はぁ！？ 低い！？」
何言ってんのこの子。今回の課題曲は子供が弾くには難しいと話題のもので、だからみんな必死なのに。というか親に文句言われなかったからって何なわけ？
「それに、ピアノを最高の状態で弾くならこの段階で詰め込むのは良くないだろう？ 気持ちのこもらない技術だけの音は、観客が退屈してしまう」
「何言ってんの？ その技術を聴きにきてるんでしょ」
「観客の言う需要と本当の需要は必ずしも同じではないだろ」
淡々とそんなことを言い進める彼の視線はもう譜面に戻ってしまっている。それが何だか悔しくて、ボクは彼の気を惹こうとぶすくれてみせた。
「変なの！ キミ、友達いる？」
「居る。多くはないがな」
「ふーん！ 名前は？ ボクは朱雀姫名。ヒナって呼んでいいよ」
「オレは司だ。天馬司」
よろしく頼む。
そう、どこか思い詰められたような──ひどく空虚で、自分の行動に何の意味も見出していないような、そう言う顔で司は片手を差し出し、握手を求めた。
変な子。
再度思いながら握手を返す。このコンクールは子供の実力を見るものであり、技量が問われるもの。大体難しいだけの練習曲に感情なんか乗せられるわけない。
(この子、ばかなのかなぁ)
軽く同情しながら二、三度手を振る。たまに居るのだ、実力がなくとも出てみたいというだけでコンクールに出る子供が。この顔の死にようなら親に無理やり出されたのかもしれない。親にとってコンクールに出る子供というだけで自慢要素の一つになるのだ。
「よろしくね、多分もう会わないけど」
「……そうだな。姫名はピアノに対して誠実だ。きっと会うことはない」
「司は誠実じゃないの？」
司は二、三度また瞬いて、そっとめをふせる。
「──道具でしかないからな、オレにとっては」
その意味を知ったのは、十年以上経った日の事だった。
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね！ 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます！ (2022年10月25日 7時) (
レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ，フラ立ってますよ！ (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：文字書きの端くれ | 作成日時：2022年10月25日 0時
