仮初だらけの ページ19
……というのに。きらきらと輝く瞳は収まらない。ボクがピアノへ向かうのについてきて、双子のひよこみたいにつぶらな瞳で揃って見上げてくるのだ。
「…………」
席につけ、と怒ってやろうかと思ったけれど、大した効果はなさそうだ。なら話を聞いてやったほうが早く済む。
「何」
「うふふ!」
「ありがとう、ご主人様!」
「とっても嬉しいですわ、ご主人様!」
「ぐえっ」
結局どーんと抱きつかれ、両方向からかかる圧に潰れたカエルみたいな声が出た。レモンピールがふわっと香る。リンは特に女の子なんだから、男に気軽に抱きつくとか、あんまりそういうことしないで欲しいんだけど。
「別に。家にあるけど使わないんだし、必要な相手に分けた方がいいでしょこういうのは!」
だからどいて! と二人をひっぺがし、威嚇する。
「早く練習に移る! 時間は有限なんだからさっさとしてよね!」
「「はーい!」」
「あ、それとしばらく連弾禁止」
ええっと不満そうな声を上げた二人に、また溜め息。当たり前だろ。連弾の前にまずやることがある。ボクは持ってきた『猿でも分かる! ピアノの超基礎テクニック〜入門編〜』とかいう基礎の入門の入門みたいなテキストをピアノに立てかける。
「基礎が出来てないのに連弾なんてさせられるわけないでしょ! 世の中の連弾してる子は個々でも相応に弾けるものなの! 二人揃ってヘッタクソのくせに」
リンとレンのクセはほぼほぼ同じなので、練習する譜面も同じ物だ。まずはリンを呼びつけ三十分間同じ譜面で基礎練習させることにした。音の場所は覚えているらしいから、正しい音階を叩き込むところから始める。
「その間、僕は何をしていればいいかな?」
「レンはこっち。譜読みが終わったら、声に出して音を合わせて読んで」
「ファ、ならファの音〜みたいに?」
「そう。それと、今のはレ♯だろ。高すぎ」
リンから離した場所で、練習用の譜面を指し示した。この程度なら自分のタスクをこなしながら練習が見れるので、ショーが終わるまでこの練習を続けてもらおう。
進度的にも丁度いい。ショーの台本と、課題曲をめくる。
(……これは……赤い靴、か)
赤い靴。アンデルセン作の童話で、赤い靴に人目を憚らず執着をし、愛する人を亡くした愚かで哀れな少女カーレンのお話。どうやら、彼女の話を語り部のような一視点で語るショーらしい。
「……ん?」
「どうしたの、ご主人様」
「いや。内容が違うなって……あとレン、♯付いてる」
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね! 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます! (2022年10月25日 7時) (レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ,フラ立ってますよ! (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文字書きの端くれ | 作成日時:2022年10月25日 0時