第三幕 仮初だらけの ページ17
「君のそれは、まるで恋みたいだねぇ」
「…………は?」
「おや、不快にさせたかい?」
全く、ちっとも、さっぱりごめんなんて思ってない顔で神代類はごめんねと軽く謝ってきた。その羽みたいな謝罪をぱっぱっと払い除け、ため息をつく。
長々とした、心底うんざりしてますよみたいなため息。もちろん、わざとである。
「……誰が、誰に、恋をしている、だって?」
「君が、彼に、恋」
「……バカにしてるのか?」
彼、と指さされたのは当然スマートフォン──の中に入っている、天馬司の音源だ。神代類は猫のような奴で、黙々と作業するくせに喋るのが好きで、しかも自分からは話題を振ってこないので、必然的に自分の話をすることが増えた。
それで仕方なく、というのも語弊があるか。誰かに話したいが易々と話す気のなかった天馬司の話を、男に教えてしまったのだ。
「バカになんて、まさか。ひなくんはすごい人だよ、僕が保証しよう」
「それならどうして、ボクがこいつに恋をしているなんて悍ましいこと思いついたのかな」
「悍ましいかい? それは申し訳ない。けれどどうしても、似ていると思って」
僕の、ショーへの想いに。
何かが完成したらしい。隣でドローンが打ち上がる。すいっと空へ飛んだそれは機能美を重視したかたちで、遊びも何もないなぁとつまらないことを思った。ショー用のそれは可愛らしく飾られているのにと言えば、見る人のいないものを着飾ってどうするんだいと返ってくる。
「……ま、そこで人を引き合いに出さないあたり、オマエはボクに似たものを感じるよ」
ここで好きな人が居るんだなんて言われたらぶん殴るところだった。だってそれは、その誰とも知らない女だか男だかに失礼だ。
「けれどそれだけだ。オマエは何もわかっていない」
「……どういう、ことだい」
「ミュージカルは見る?」
「よく見るよ」
「へぇ、そう。それにしては随分お利口さんな解釈だ」
オペラ座の怪人は見なかった口かな、と口の端を吊り上げる。神代類は驚いたように瞬いて、ああ、と数秒後納得したように声を上げた。
「クリスティーヌと『怪人』の悲哀を描いたものかな。昔何度も見た記憶があるよ」
「そうだね、悲哀だ。そして悲恋でもあり、愛でもある。
狂った執着と、寂しさと、真実の愛だよ。その『真実』は、トゥルーであってハッピーではなかったけれどね」
スマートフォンを見下ろす。ドローンを飛ばすため立った位置からつむじを見てくる神代類にため息を吐いた。
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね! 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます! (2022年10月25日 7時) (レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ,フラ立ってますよ! (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文字書きの端くれ | 作成日時:2022年10月25日 0時